1、完璧淑女の日常
この物語はかなりフィクションです。作中に登場する団体名・作品名・登場人物は別の世界のものであり、一切現実と関係ありません。
残酷描写等々もありますので苦手な方やそれらに性癖がある方は注意してください。
後、作者は中2病にかかってるくさいので、それらに抵抗のある方はお気を付けてください。
1、完璧淑女の日常
待ちに待った誕生日、幸せに笑顔を浮かべるはずだった少女は、当然の幸せ笑みを浮かべられる人生を奪われた。
少女にとって記念すべき日。だが天候はあいにくの雷雨。それでも少女は大好きな父と母が笑みを浮かべて祝ってくれれば、それでだけで嬉しかった。
そんな大好きだった父と母が襲われている。
娘の誕生日を迎えるはずだった家に、招いてもいない黒いローブとフードで顔を隠した黒い人たちが土足で入りこみ、父と母を押さえつける。
目の前で抵抗しようと暴れ叫ぶ動きが段々と無くなっていく父と母。
それを涙を流し、部屋の隅で恐怖と震えで言葉を無く縮こまる六歳になったばかりの少女が見ている。
そして、目の前に映るそれを見つめる存在感のない私がいた。
まるでビデオの早送りのように劇的に流れる光景、映画のワンシーンでも鑑賞しているかのような、現実のことではないような光景がそこに、目の前で展開された。色にするならば白黒の、モノクロの情景。
少女は恐怖でその小さな体を細かに震わせ、あまりの恐怖で瞼を閉じることもできず目を見開いて、目の前の映像を目に焼き付けることしかできない。
黒いローブを着た人たちは声を無くした哀れな小さな少女に目もくれずに、父と母の二人を“真っ白になるまで貪りつくし”た。
牙を突き立て、血を口にベッタリとつける黒いローブの人達はおぞましいほど恍惚の表情で父と母から何かを吸い出す。
吸い出されていく父と母は、眠る様に目を閉じていく。二人は求めるように互いの手を伸ばすが、ついにその手が合わさることはなく、力尽きた。
真っ白になった二人は、真っ白な粉になって崩れてなくなった。
少女はそれでも言葉がでない。いや、言葉など出せない。出してしまえば……
思った通り、次はお前だと言わんばかりに禍禍しい赤色の瞳たちの視線がゆっくりと少女を捉えた。緊張と恐怖と黒い者たちの狂気に満ちたせせら笑いが少女を犯す。
このまま少女は殺されると思っていた。
「静まれ」
静寂を打ち破るように低く人の心に染み込むかのような声がその場を支配する。声の主は黒い人たちと同じ格好をしている。だが何か、別次元の存在のように感じた。
両親を白くした黒い人たちは支配者に跪き、道を作る。支配者はその道の先にいる少女に向かって、ゆっくりと歩み寄ってくる。
それはまさに死刑への道、違いがあるとするならば執行者がこちらに向かってくることだろう。
声すら出せない私に執行者が、少女に向かって語りかける。
「 」
されども男の声は届ない。モノクロの情景がさらに白く、明るくなっていく。同時に目の前の景色が遠ざかる。それに伴い意識が覚醒するかのような倦怠感が体を駆け巡る。
この慣れることのない場面は何度も観ていた。このモノクロ色で彩られる展開を何度も、そう視ることしかできなかった、もう観ることしかできないのだ、何せコレは・・・
「夢」
声とともに覚醒した私を軟らかなベッドの温かい抱擁感と窓から差し込む適度な春の日差しが一度寝ることを強く推奨してくる。
「おはようございます。お嬢様」
ガチャリとドアを開ける音が慎ましく響く。残念ながら私は誘惑には負けられないようだ。
ベッドからゆっくりと起き上がりよくできた私付きのメイドの後を静かに追い、広い誰もいない部屋で朝食をとる。
これは現実だ。あの悪夢の続きではない、だが、ある意味では明確に続いている。
(あれは夢、そう夢。ただの・・)
「ただの思い出」
あの少女だった自分にはもう慣れが生じてしまった私の記憶、されど今でもそれは私を縛り、今も苦痛を思い出させる。
そして、いつまでも私を苦しめるのだろう。
静寂に満ちる部屋で朝食をとらされ、静寂を貫き通すメイドにされるがままに制服に着替えさせられる。
鏡越しの自分が私を見る。
日本人には珍しい艶のある亜麻色の地毛が腰まで流れ、体つきは柔らなバランスの取れたライン。身長は164cmほど。顔は作られた芸術品のように繊細なバランスのとれた構成だが、温厚そうな笑顔が似合うだろうと断言できる温和な顔立ちをしている。自己の評価ではこれくらいだ。自分で自分を褒めることのできない人間なのだ、私は。
今は黙を義務にしているかのような運転手の運転する胴の長い高級車で学校へと送られていく。いつもの一日のはじまりだ。
車が駆動する音以外は聞こえない道が10分ほどの続くため、私は目を閉じた。音と生活感がほとんどないのは先ほどまで生活していた屋敷があるのは人のあまり住まない首都郊外にあるためだ。道路はきちんと舗装されてはいるが風景は森林か田園風景で、本当に首都なのかと聞かれると自信を無くすだろう。
ほどなくして車の音以外の音が聞こえてきた。これが人里に、現在“も”日本の首都である東京に出たという合図だ。
「ああっ! 九重様!!」
首都に入ってからまた十分ほどで到着した場所。ここが私の在学する高校なのだが・・・
「撫子さん、おはようございます!」
“九重 撫子”。
到着した車の外に集まる人たちが呼ぶ名、それが私の名前だ。
まるでテレビに出ているタレントが目の前に降臨したかの様な目をした(主に女子)生徒たちが車の窓ガラスの向こうから私に注目してくる。慕われることは嬉しいが、キラキラとした尊敬以上の眼差しがコワイ。
一応、説明するが私は芸能人でもなんでもない、ただの一般人だとも言い切りないが。
車のドアを運転手が静かに開け、足から静かに車を降りる。
目の前に出来た人たち10数名と素早く確認し、それに見合った声を感覚で範囲、ボリュームを決定しその場にいる全員にきちんと届くようにする。一人でも無視されたと思わせたら、嫌な噂や根も葉もないことも言われかねない。
「おはようございます。」
挨拶の後に笑顔も忘れない。ここも加減が必要となる。媚びすぎず、だが爽やかさを失わない程度に全員へと意思が向かうように心がける。諸外国では初対面の笑顔は逆効果となることが多いので注意がいる。
人が集まり混乱が起きるのは自分がその混乱の中心へ行きたい、成りたいという一種の願望の表れであり、それは自分を認識したい、してもらいたいことへと繋がっている。だがら、全員が認識を受けていると感じればそれなりに混乱は沈静化する。まあ、数にはよるが。
大きくならず、かつ恥らいある程度の歩幅で一歩を踏み出す。人の海が割れる、出来た道を規則的な歩みで渡る・・・海を割ることで道を作った伝説を持つモーセもこんな気持ちだったのだろうか? いや、きっともっと爽快だったに違いない。
校門を超えた先は登校の喧騒であふれていた。昨日のこと、今日の授業について、宿題、友人関係、いろいろな話題で友達や多人数に和気藹藹と学び舎に入っていく。
私だけが単独行動しているというわけではないが、そんな孤独感も感じてしまう。あれだけ人が集まっていたのは私を慕ってくれている訳ではないとは判っているのだが……
「おい、見ろよっ。撫子さん……カワイイな~」
「どっちかってゆーと、綺麗じゃないか?」
その中のひと組の男子が私の話題になる。いつもどうりに声のする方へ顔を傾け会釈する。
「おお~。でも、あんなキレイじゃさ? 敵も多いんじゃね? そこどうなん、女子代表?」
「あん? 急にふんじゃないわよ!?」
私も気になる会話だ。彼らの死角にはいることを心がけて、聞き耳を立てる。……罪悪感はきちんとあります。あっても良いというわけではないのだろうが……
「あったけどさ……あんな清楚かつ完璧なキャラ作ってたらなんかムカつくけどさ。そういうグループ連中の前で「ごめんなさい、でも私の行儀の悪さは養父に迷惑がかかるので許してください」とか言われたらさすがに……ね」
私は何度も頭を下げ、その剣幕さに困った顔をする女生徒たちのことを思い出した。
「そういえば、どっかの大企業の社長なんだっけオヤジさん?」
「大企業どころか超が付くわよ。ドレイクカンパニーって世界規模の大会社でしょうが」
世界に多くの傘下を従え、今や世界に無くてはならない大会社とまで呼ばれるドレイクカンパニー。
そのドレイクカンパニー社長、ドレイク・V・ノスフェラ。その娘であるが故の苦悩。義理の、という言葉は前に付くのだが……その意味は変わらない、自身のことではないにせよ、否応なく品性などは問われてしまうのだ。
喧騒から聞こえる私の話。文武両道で才色兼備、清楚で控えめ、他者への配慮を忘れない……
……実際はそんな大層な女ではないのだ。
この学校は下駄箱はなく、土足でそのまま校内へと入ることができる。
所属するクラスへとわかれていく階段へ辿り着く手前で、目の前に自分の姿をしたもう一人の私が現れる。
鏡だ。
茶色のブレザーと緑色のチェックのミニスカートという制服がよく似合っている。
私には唯一の自画自賛できることがあることを思い出した。自分の容姿は母と似ているのだ。かすかな記憶に残る母は優しい笑顔で、私を……。だが、私は同時に鏡に映る母のような姿をした自分のことは……
鏡に映る自分に向かって言葉を放つ。周囲に聞かれることはない、自分にのみ聞こえる声で。
「私はあなたが、キライ。」
人から“完璧淑女”と呼ばれる人間の姿は、自暴自棄とも取れる発言の後に視線をそらして、逃げるように教室へと駆けこんだ。
終焉を告げる鐘の音が響く。
最後の授業の終わる音が響き渡り、ホームルームが始まる。その後は人それぞれの場所へ歩きだす。部活に励まんと奮起する者もいればアルバイトがある者、それぞれのあるべき所へと向かってゆく。
私は……
「お迎えに上りました、お嬢様」
特に部活にも所属していないので帰宅する者の一人に数えられる。朝と同じ運転手が校門で待ち受け、車に迎え入れてくれる。普段どうりの言葉も聞きなれたが、今日の彼の言葉には続きがあった。
「今日は“晩餐会”でございます」
“晩餐会”という言葉に感情の水面が揺れ動くが、無理やり平らな感情で蓋をする。
「そう、今日でしたか」
なんでもないこと、と聞こえる声色で返す。私が乗車すると、すぐに車は発進した。
「今夜の会には各方面より名のある方々がいらっしゃいます。中国の方からは……」
今夜のお客の情報を運転しながら説明してくれているようだが、耳には入れたが記憶の隅に留めようとはしなかった。それは意味のないことだからだ。
私は車の窓の外の風景に意識を向ける。
コンクリートジャングルの名に恥じないビル群で作られた世界が広がる。夕日に照らされ赤色、それに負けじとポツリ、ポツリと光り輝きはじめた街の明かり、人が波のようにそれぞれのペースで歩み、身につける服がさまざまな色合いを作り上げ、街に人が生きて作り上げる命の灯火で飾りつけをしている。
だが、同時に注意深く見ると違和感が生じる。高層ビルと呼ばれる天を衝かんばかりの高い建築物がなく、あるにはあるが工事中のシートで押さえつけられ、縮んでいる。
それ以外でもあちこちに焼け跡のように傷が風景を汚している。工事現場の数も多い。
このような傷跡や景色は珍しくもなく世界各地に出来上がっているのだろう。
なぜならそれは戦争が起きて出来上がった傷であるからだ。
第三次世界大戦。
そう呼ばれる世界規模の戦いを人類は起こしたのだ。
日本は第九条の精神を貫き、軍隊と戦争への協力・派遣をすることはなかった。だが、所属する陣営の敵国に理由を作られ問答無用に攻撃され、自国防衛のため自衛隊が十分に奮闘したがやはり傷跡はできてしまった。
日本全土に戦争の傷跡が刻まれたが、その中でも首都である東京は大打撃を受けた。23区の台東区を中心とする東側は復興の目処が立たないと判断され放棄・隔離された。当然、修繕費や被害総額は計り知れず、これまで復興支援をしていた国は逆に受ける立場へと変わったのだ。
そんな戦争が終わったのは私が生まれたすぐ後らしい。復興の開始も早くに行われたのだが、日本人が平和を取り戻したと実感できたのはつい最近だったように思える。そんな風景を、明日へ向かい歩きだした人々が前を向き生きている姿は素晴らしく、愛おしくもあり……
「……と以上の方々です。旦那さまよりお嬢様はご出席せよ、とのご命令が出ておりますので」
「わかりました。」
……なんとも羨ましい。
幻想的光景が目の前にある。
人それぞれの想う情景はあるだろうが、私は目の前に広がる光景はその最たるモノのように感じた。
人里離れた暗闇が広がる土地に、豪奢な屋敷がそれを作り出す。白色をベースに作られた貴族が住まう宮殿を模して作られた外装と内装、外にまで響くオーケストラが作り出す芸術的な音色、その中を世俗ばなれした華やかドレスとスーツを着た者たちが闊歩する。貴族の世界にでも迷い込んだ、と錯覚させる目の前の光景が私の前にあった。人はこれをパーティーと呼ぶ。
蒼いドレスに身を包み、濃すぎない程度の化粧で身を締めた私は幻想空間へと進んで迷い込む。何人かがこちらに気が付き、挨拶をしてくると会釈しながら進む。すると目の前に一人の人物が見えてくる。
上等な背広をその身に着こなした40前後の年の男性、顔を彫が深い芸術的な造形で作り上げている。色あせた灰色の端正に調った髪と口髭。年相応にしわが生まれているが、彼の翠玉を想わせる緑の瞳は覇気に満ち、体全体からも威厳が伝わってくる。王者の風格を持つ男。
男の名はドレイク・V・ノスフェラ。世界規模での大企業の社長、なにより私の養父。
「撫子、よく来たな」
低く人の心に染み込むかのような声。違和感無いしっかりとした日本語で紡がれた言葉、そこにはあるのは当たり前の感情のみだ。傍から見ればできた親子にも見えるが、親愛の感情は微塵も含まれてはいないことに気が付くことができるのは、果たして何人いるだろうか。
「はい、御養父さま」
私はもちろん愛想を込めた返事と笑顔で話す。周りにはどう思われているのだろう? 最高の親子? 理想的な父と娘?
そんな関係ではない。私はただの……
パーティーの順調に滞りなく進む。
会話に勤しむ者、社交を結ぶため奔走する者、流れる音楽に乗せダンスを踊る者たち。私は会場の壁際でそれらを眺めていた。
それぞれの行いに身を投じる客たちであったがやはり終わりは来る。
時計の短針が9時を指した。華やかパーティーは終わりに近くなるが、不自然なことに誰一人として帰る気配はない。
当たり前だ。ここにいる全員は“晩餐会”を目的にしてきたのだ。本当はパーティーなどに意味も興味もないのではないだろうか、実際。
「皆さん、今日のパーティーは楽しんでいただけましたか?」
養父、ドレイクの声が会場となった屋内に響き渡る。人の視線を集めるその姿はまさにカリスマ。
「ですが、今夜の会はここで閉じさせていただきます」
ドレイクを観る客たちの雰囲気が変わる。いや、実際目の色が変わる。
「続きまして“晩餐会”を始めさせていただきます」
歓喜の声ひとつない晩餐会のはじまりと同時に華やかな明かりに包まれていた空間は真っ暗となる。
それと補足するが、実際に目の色が変わったといったが比喩などではない。
「今夜のメイン・ディッシュとなります」
真っ暗な空間のはずなのに“赤い色”が無数に爛爛とそこに存在があることを主張しているという意味である。そんな赤の支配する異様な空間に白い上等な布をかぶされたモノが台座に乗せられ運ばれてくる。数は5台で50人ほどいた招待客の数には少々足りない。その布をゆっくりと給仕が取り去る。そこに乗せられているのは・・・
「私自ら厳選した逸材です」
女性だった。少女といってもいい年齢から30代ほどの女性たちが台に乗せられ運ばれてきた。
異常な光景だった。運ばれてきた猿ぐつわをかまされ、四肢を縛られ仰向けに寝かされた女性たち。それを囲む赤い目を輝かせた人々。その悪夢のような光景に前者達は恐怖に涙をためて震え、後者達は飢えたようによだれを垂らしている。
「なので“おいしくいただけること”を保障します。」
まるで時間制のバイキングが始まること告げるかのような簡単な合図が切られ、狂気が弾けた。
誰が最初のスタートラインを切ったか見分けはつかない。薄暗い闇の中では判別など出来なかった。招かれた客たちがドレイクの言葉を合図に女性たちへと群がり、牙を突き立てる。
闇の中から響く音の中で女性の悲鳴が上がる、猿ぐつわが外れたのだろう。悲鳴に色どりを加えるように部屋に唯一光の差し込む天井の窓から月明りが意図的に差し込まれる。
光に照らされた空間に浮かび上がるのは牙を突き立てられ”血を吸われ真っ白に干からびて行く女性たちの姿と、歓喜と狂気の表情を浮かびあがらせながら顔を血で赤色に染める“吸血鬼”達の姿。
今夜、呼ばれた客はすべて人ではない。“吸血鬼”と呼ばれてきた古の化物、物語の中の存在。それが私の目の前に実際に存在し、伝承どうりに人の血液を貪り啜る。
私はそれらを目にしながら感情もない仮面の表情でその場にいるのみ。そんな私の視界に一人の視線がぶつかる。
ごちそうと呼ばれた一人、私と同じくらいの年齢ぐらいの少女。彼女が動かぬ体の代わりに目で助けを求る。
だが、私は彼女に応えることはできない。
「撫子、どんな気分なのだ? 同族が目の前で無抵抗にも喰われる気分というのは?」
いつからいたのか、彼ら吸血鬼たちのまとめ役にして長と呼ばれる存在、養父─ドレイク・V・ノスフェラは人間を遥かに上回る身体能力でまるで瞬間移動でもしたかのように隣に立っていた。
「私は……」
目で救いを求めていた少女の方へと視線を戻す。だが、彼女はいない。瞳で助け求めていた少女は消えていた。灰になったのだ。吸血鬼に血をすべて吸い取られると灰となり、塵となって消えてしまう。私の父と母がそうであったように……
晩餐を終えた人ならざる者たちが満たされたように狂気から、夢から覚めたように普通の人間を模した姿へと帰ってくる。狂っている世界、狂気を正常とする生き物たち、だけど本当に狂っているのは
「私はお養父様のために完璧な人間となるべく作られた“人形”です。」
「悲愴感や憐れみの感情は不要な感情の一つ」
「それに彼女たちも、お客様方に食されたのなら」
「幸せでしたでしょう?」
何の迷いもなく笑顔で言い切る、私。
そんな私を、満足げに見る養父。
全てが狂っている世界。その中でも、本当に狂っていて最低なのは……私だ。
普段どうりの一日が終わる。
できた“人ならざる”メイドが部屋の明かりを消すと早々、朝に夢を見せたベットに潜り込む。
6歳だった私は目の前で吸血鬼に両親を殺された。同じく殺されそうになった私は当時でも吸血鬼たちの王として君臨していたドレイクの、とある“趣味”により彼の養女となった。
定期的に行われる饗宴に耐えるため自分の感情を捨ねばならなかった。悲しむ心も罪悪感や未来もなにもかも捨てさせられ完璧な人形になっているはずなのに……
潜り込んだベットに水滴が落ちる。布団で覆い隠した瞳から水分が溢れてくる、涙だけは捨てられていなかった。
涙を流すなんてことを、目の前で助けを求めていた少女を見捨てた醜悪極まりない女が起こしていい現象ではない。だが、溢れてきてしまう。
嗚咽をもらさぬように歯を食いしばり泣き続ける。だから私は自分がキライ。死んでしまった少女たちよりも消えるべき人間はココにいる!!
「早く終わってしまえばいいのに……私の人生なんて」
小さな小さな自分へ向けたにしては淡白な声色で放つ呪いの言葉。いつもの一日の終わり方。いつもの日常が終わる。これが10年ほど続いているいつもの日常。
次話へ
始めて投稿するので・・・いえ、まず完成させます。
10月22日、細部を修正しました。
H24 3月20日、細部を修正。