5-6
「さて、お主の国の砂漠化についてじゃが……」
「ちょっと待て!」
さらっと月の神の話を終わらせるな!
手で額を押さえ、一つ息を吐く。
「月の神、は……もう脅威ではないのか?」
俺の問いにしばし首を傾げ、時の神が口を開く。
「脅威、か……。そうじゃのう……お主があの方の胸を貫いた時に、剣に込められた光の御子の魔力があの方を包んだ」
「光の御子の魔力……」
「あれは、太陽神さまの御力でもあるからの。姉神さまに包みこまれているような心持ちであったろう」
紙のような手応えだった月の神を思い出す。
確かに胸を貫いたというのに、強大な敵を倒したという感じはしなかった。しかも……。
「その割には、物凄い形相で俺たちを斬りつけてきたが……」
楽な寝着を身に着けていることに気づき、胸元をくつろげてみた。
鎖骨の下から脇腹まで、斜めに伸びた傷跡がほんのり朱色に線を描いている。
ハッとして、時の神に視線を向けた。
「スズシロは!あいつはどうなった!?」
何故忘れていられたのか。俺を庇って、俺の目の前で倒れた真っ白な精霊。
あれほど助けられたというのに……。
「案ずることはない。あれは無事じゃ」
のんびりとした時の神の返事に、ほっと胸を撫で下ろした。
主である時の神が言うのなら、スズシロは無事なのだろう。
「お主に斬りつけた時のあの方は、何と言おうか……最後の、まぁ、悪あがきじゃな」
「悪あがき……」
「お優しい太陽神さまに宥められておる気持ちで、昔を思い出して苛立ったのを、お主にぶつけたのじゃろう」
何だその、子供の我儘は。
いや、あいつはそういう神だったな。
はぁっとため息を漏らす。
「さすがに、神につけられた傷を完治させるのは、無理であった。お主の命を繋ぎ止めるのが精一杯じゃった。儂が油断したせいじゃ。悪かったのぅ」
時の神の言葉に目を丸くした。神が人に謝るなど、想像もしていなかった。
「いや……死をも覚悟してあの場に赴いたのは俺だ。彼女の心臓を取り戻して、全て終わったつもりになっていた」
時の神の隣の椅子で、宰相の眉がピクリと上がった。
まずい、これは説教されそうだな。
ゴホンと咳払いし、宰相から視線を逸らす。
「月の神は、月森宮に籠って出てこないということだったが」
話題を戻した俺に時の神が頷く。
「あの方のことは、儂に任せておくがよい。魔女の心臓を取り返され、太陽神さまの復活はもはや避けられぬ。それを悟ったあの方は、今は大人しい」
「今は、か。暗示をかけたと言ったな?そんなことができるのならば、初めからそうすればよかったのでは?」
それなら、世界から太陽が失われることも、太陽神が封じられることも、そもそも、クララが囚われる必要もなかったのではないだろうか。
俺の疑問に、時の神がバツの悪そうな表情を浮かべる。
あ、嫌な予感がするぞ。
「あの方に、儂だけを見てもらうために、一度全てを手に入れ、その後絶望していただく必要があったからのう……」
がっくりと、俺は肩を落とした。




