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時の神の話は続く。
「水の神は、月の神の眷属ではあるが、太陽神さまを尊敬していた内の一柱ゆえ、力を貸してくれるであろうよ。魔女の新たな肉体を創造し、太陽神さまが出ていかれた後、その魂を移せばよい」
簡単に言ってくれる……。
いや、神々にとっては、容易に成せることなのだろうが。
それを、果たしてクララも望んでくれるかどうか……。
「えー、時の神さま?その、新たな肉体を創造するというのは、すぐにできるものなのですか?」
恐る恐る、といった口調で宰相が尋ねる。それは俺も知りたい。
「そうじゃな、水の国の神殿に、魔女の記録は残っておるじゃろう。それを元に、水の神が肉体を造り魔力を入れるだけじゃから……一月ほどか?」
冷めてしまった茶で喉を潤し、時の神がさらに続ける。
「魂に絡みついた本人の魔力があるからの。水の神が肉体に込める魔力はそれほど要らぬ」
「あー、っと……魔力、というものが、そもそもよくわかりませぬが。とにかく、その策で上手くことは運ぶ、ということですかな?」
物凄く言葉を選んでいるな。国政にいる時の冷徹な印象の宰相とは思えん。
「ならば、すぐに依頼してくれ。俺は北へ向かう」
「待たれませ、陛下」
立ち上がろうとする俺の肩に、宰相の皺の増えた手が置かれる。
「もう待てない。こうしている間にも、彼女の肉体が限界に近づいているのなら、すぐにも駆けつけたい」
宰相の深い緑の瞳を真っ直ぐに見つめる。
俺の覚悟が伝わったのか、小さく息を吐いて宰相が手を離した。だが、俺が立ち上がる前に、時の神が声を掛けてきた。
「だから、待てと言うに。水の神には頼んでやる。じゃが、話はまだ終わっておらぬ」
「他に何の話がある?」
「……月の神のその後じゃが……」
言いにくそうに、ぼそりと呟いた時の神の言葉に目を見開いた。
そうだった。クララが案じられるあまり、すでに忘れかけていた。
姿勢を正し、時の神に続きを促す。
「すまん。そうだった」
「まさかとは思うが、忘れておったのか?」
「……」
俺の無言を肯定と取ったのか、時の神が呆れたような目を向けてきた。
「まぁ、お主らしいかの」
コホンと咳払いをして、時の神が話を続ける。
「あの方は、月森宮に籠って出て来られぬ」
「あ゛?」
「お主の剣で胸を貫かれ、魔女の心臓を取り出され、一時はお主と同じように昏睡状態であった」
神でもそんなことがあるのだな。
「あの時、あの宮殿にいた少年たちを憶えておるか?」
月の神の寝所に突入する前、薄暗い部屋の寝台で震えていた少年たち。
スズシロの結界で護られていたはずだ。
そうだ。彼らのことも、どうなったか聞かなくては。
「あぁ。スズシロが結界を張ってくれたはずだな」
「左様。あの子供たちが、アサギという子供をまとめ役に月の神の世話を引き受けた」
「は!?アサギもか!?」
国元から攫い、慰み者にされていた少年たちが、元凶である神の世話を?
怯えながらも俺を真っ直ぐに見上げていた、淡い銀色を思い出す。
「すでに帰る家はなく、長年神の庭で暮らしていたためにただの人の子でなくなり、最早どこにも居場所はなくなっておった」
「……」
「儂のかけた暗示のせいで、あの方は他の者と体を繋げることはできぬ。あの少年たちも、安心して世話役ができるであろう」
何か今、さらっととんでもないことを言ったような……。




