5−4
長い長い話に、宰相が疲れたようにため息を漏らした。
薄くなった頭をつるりと撫で、天井を睨んでいる。
俺が炎の国を旅立ち、北の岬の塔でクララと出会ってから、月森宮で月の神に斬りつけられたところまでを、途中で言葉を挟ませずに一気に話したからな。
聞かせている俺も、改めて纏めて話してみると随分疲れたな。
特に、神話の続きと、その後の月の神と時の神の愛憎劇は、話していて虚しくなってきたぞ。
そんなことのために、世界から太陽が失われたのかと、力が抜ける気持ちもよくわかる。
「……言いたいことは色々ございますが、ひとまずは飲み込みましょう。それで、こちらにおいでなのが、その時の神、と……?」
「うむ、そうじゃ」
ふんぞり返っている時の神に呆れたような視線を送っていると、宰相は諦めたように再びため息を零す。
「えー……それで、太陽を取り戻すための鍵は、すでに我が王の御身の内にある、ということですな」
眉間に皺を寄せ、俺を、いや俺の胸あたりをじっと見つめている宰相に、時の神が重々しく頷いた。
「まずはそれを、魔女に戻さねばならぬ。肉体に心臓が戻れば、封じられた太陽神さまは外へ出られる」
「それは、単に心臓を戻すだけで、太陽神は勝手に外へ出てこられるのか?彼女の身は無事なんだろうな?」
「……」
顎に手をやりしばらく考える時の神に、不安が襲ってくる。
この神は、いい加減なところがあるからな。本当に大丈夫なんだろうな。
「魔女の心臓が封印の鍵じゃからな。戻せば、太陽神さまは自然とその圧縮が解かれ、出てくることができよう。その後の魔女の肉体じゃが……」
おい、そこで言葉を切るな。心配になるだろうが。
「正直、わからぬ」
「!!」
思わず時の神の胸ぐらを、身を乗り出して掴む。
「貴様……っ」
「陛下!」
宰相が青い顔をしているが、知ったことか。大方、神相手に何と不敬なことを、とか考えているんだろうが、この神は敬意を払うに値しないからな。
「まぁ、最後まで聞かぬか」
姿が若返っても飄々とした態度の時の神に、少し頭が冷えてくる。
手を離し、元通り寝台に座る。
「お主の焦りもわかるが、落ち着かぬか」
乱れた胸元を整えながら、時の神が苦笑した。
「儂がわからぬと言うたのは、今の魔女の肉体がどうなるかわからぬ、ということじゃ」
「……?」
「あの肉体は、あの方が造り変えた魔力の器じゃ。太陽神さまが出て行かれた後、その変容した肉体のままなのか、元の人の子としての肉体に戻るのか、わからぬ」
それは、結局クララが無事でいられるかわからないという意味ではないのか。
月の神への怒りがぶり返してきそうだ。
膝の上で握りしめた拳が震える。
「よって、新たな肉体を用意しよう」
「……はっ?」
弾かれたように顔を上げた俺の目に、時の神の悪戯っぽい笑みが広がる。
「新たな、肉体……?」
「どちらにしろ、今の肉体は塔の外に出ればバラバラに砕け散る。それでは、真の意味での解放とは言えぬ。ゆえに、水の神の力を借りようと思っておる」
「水の神……」
水の国の王女であったクララに、水の神が力を貸してくれると言うのか。




