5−3
運ばれてきたのは野菜をくたくたに煮込んだスープと、山菜をふんだんに入れた粥だった。
器から立ち上る湯気が、鼻腔をくすぐる。
猛烈に腹が空いてきた。
「美味そうだな」
ポツリと零した言葉に、侍女が泣きそうな顔で笑みを浮かべた。
見覚えがあるような……。そうか、北へ旅立つ直前まで、俺の世話をしていた侍女の一人か。
あの頃はまだ生家から奉公に出たばかりの少女であったのに、美しい婦人に成長したものだな。
「陛下、お戻りを、お待ちしておりました」
喉に詰まりそうな震えた声で、呟きながらその場に膝をつく侍女に慌てる。
感慨に耽っている場合ではなかった。
「よい。楽にしていろ」
「……ご無礼を……」
深く頭を下げた後、侍女が立ち上がって壁際まで下がる。
盆に乗った匙を手に取り、スープを一口、口に運ぶ。
体中に優しい味と温かさが染み渡っていくようだった。
ゆっくりと、だがしっかりと食事を取る俺に、向かいに座った時の神が満足そうに目を細めて茶に口をつけている。
出された食事をすべて食べきって、ふうと息を吐く。
南国特産の果物を使った、香り高い茶を味わう。あぁ、随分久しぶりだ。
「落ち着いたかの」
「あぁ。温まって、生き返ったような心持ちだ」
「では、話の続きじゃな」
時の神がチラリと壁際の侍女に目をやった。
「彼と二人にしてくれ」
「っ、陛下、それは……!」
「お前の心配もわかる。だが、俺も目覚めたばかりで混乱している。頭を整理させたい」
俺の言葉に、どうしようかという顔で侍女が宰相を窺う。
「私のことも、追い出されますかな」
「ズルい物言いだな?」
「貴方さまが旅立たれてから、そして意識を失ってお帰りになられてから、大きな混乱もなく国を守ってまいりました。労ってくださってもよろしいのでは?」
だから話を聞かせろということか。
「うーむ……」
「お主が信頼できる相手ならば、聞かせてもよいのではないか?」
思わぬ助け舟に、時の神をまじまじと見つめた。
「だが、宰相はただの人間だぞ?その……聞かせて、いいのか?」
要は、神々の喧嘩の話だぞ。しかも、それぞれしょうもない動機の。
神の権威とか、そういうものが崩れると思うが、いいのだろうか。
「どうせ、太陽が戻れば、あの方の所業は世に知られる。大神殿は復活し、神の神託を受ける者が再び集うであろう。太陽神さまの眷属の神々が、黙っておるまい」
「今までは、何故黙っていた?」
「そりゃあ、太陽神さまご自身が質のようなものであったからのう」
「あぁ……」
だから、太陽神の眷属の神々は、月の神の横暴にも手を出せなかったわけか。
「隙間を縫うように、火の神は後世に望みを賭けたようじゃがな」
「……?」
「陛下、そろそろ同席を許して頂けるのか伺っても?」
しびれを切らしたように言葉を挟む宰相に苦笑し、俺は頷いた。
「仕方ない。まずは俺が国を旅立ってから何があったか、聞かせる。侍女は外に出せよ。宰相だけだ」
「御意」
不安そうな表情を浮かべる侍女を宥めて外に出して、宰相はしっかりと扉を閉めた。




