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太陽が昇らず世界が薄闇に包まれ、自分の国を守るためにこんな北の果てまでやって来て、聞かされたのが神々の喧嘩じゃ、そんな顔にもなるわよね。
「……では、太陽が再び昇るようになるには……」
「誑し込まれた時の神を正気に戻すか、月の神の気持ちを変えさせるか。太陽神は自ら戦うような性格じゃないから、月の神に挑んでもらうのは難しいと思うわ」
お手上げ、といった仕草でライカーンが上を仰ぎ見る。
「その手段をとるとして、神々に容易く会えるとは思えんのだが……」
「そりゃあ、まぁ……」
一つだけ方法があるにはあるけど、まだ言えない。
「……頭から湯気が出そうだ」
小さく呟かれた言葉に、ライカーンの顔を見つめる。
難しそうに眉間に皺を寄せている。
人差し指を伸ばしてみた。
つん、とその皺を突いてみる。
「……っ!」
バッと音が鳴りそうな速さで、ライカーンは自分の眉間に手を当てた。
「あ、ごめんなさい。ここ、皺が寄ってたから」
自分の眉間を指差してみた。
気持ちを落ち着かせるようにお茶を飲んで、青年王が息を吐き出す。
「時の神には、どうすればお会いできるのだろうか」
「誑し込まれた神さまを、正気に戻す?」
「他の選択肢はより厳しい。誑し込まれているというのがどれほどの状態かわからんが、元が理知的な神ならば、話せるかもしれない」
「……」
ライカーンの橙色の瞳をじっと見つめる。
こちらを真っ直ぐに見る、誠実な瞳。
ふうと息を吐き、私は立ち上がった。
「クララどの?」
「私は、この塔を出ることはできない。けれど、この塔から時の神の住処へは飛べるはず」
バッと顔を上げて、縋るように私を見る青年王の表情は、真剣だった。
「頼む。方法を教えていただきたい」
「貴方、魔法は使える?」
何を言われたのかわからないという顔をして、ライカーンは首を傾げた。
「魔法とは、御伽噺の中でのことではないのか?」
「いいえ、この世には魔力が漂っている。貴方の体の内にも、きっとある。扱い方さえわかれば、使えるはずだわ」
「魔力……」
「この塔の中では、時が止まっている。外界の時間の流れから切り離されているから、まずはこの塔で、魔法を使うための訓練ね」
私に向かって、ライカーンは深々と頭を下げた。
「よろしくお頼みする、クララどの」
彼なら、すぐに魔法を扱えるようになるかもしれない。
別れは、すぐそこだった。




