表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時果ての魔女  作者: 紫月 京
4章 神の庭にて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/111

4−22


ゆっくりと、まるで操り人形の糸が切れるように緩慢に、月の神の体が傾いていく。

肉体を斬った手応えなどまるでなく、柄から伝わってくるのは温かなクララの気配のみだった。

剣を引き抜こうと柄に力を入れた瞬間、ガッと刀身を掴まれた。

「!!」

「……よくも、僕に……」

絞り出すような声に、思わず飛び退きそうになる。


『手を離すな。魔女の心臓が出てくるぞ』


やはり時の神の声のようだ。

聞き覚えのある嗄れたものよりも幾分若返ったその声が、重々しく告げた内容に目を剥く。

クララの心臓……?

目を見開いた俺の前で、月の神の体が内側から淡く輝き出した。

月の神の青白い光と、クララを思わせる蒼い清浄な光が混じり合っている。

同じ青い光だというのに、その輝きには天と地ほどの差があった。

薄気味悪い青白さに包まれたその奥から、温かさを感じさせる蒼い光の塊がゆっくりと見えてきた。

「……許さないよ。これは、僕の、モノだ……」

刀身を掴んだままとは反対側の手で、月の神が己の胸元、剣が突き刺さっているあたりを押さえつける。

「僕が、僕の……誰にも、渡さないよ」

身勝手な言葉に頭がカッとなる。

「お前のものではない。それは、彼女のものだ」

低く抑えた声に、月の神がようやくこちらを見上げた。

虚ろな淡い銀色を、睨みつける。

「お前が、彼女から奪ったものだろう。返してもらうぞ!」

柄を握る手に力が入る。まるで紙のような手応えだが、確かに月の神の肉体を貫いているはずだ。

何故、こいつは死なない?神を人の身で倒すことなど、やはりできないのか?


『……どれ、そろそろ頃合いかのう』


「あ゛?」

呑気な声に思わず視線を壁に向けた。

俺の視線を追って、月の神も氷の棺に血走った目をやる。その銀色が、限界まで見開かれた。

「……君、どうして……」

俺たちが見つめる先で、ゆっくりと氷が溶けていく。

寝台に敷かれた薄布の上に、ぽたり、ぽたりと水滴が落ち始める。

すべての氷が溶けきった後、壁に磔られていた時の神が、すうーっと目を開いた。

白銀の髪を背中で揺らし、がっしりと引き締まった体躯でふわりと床まで降りてきた時の神は、見知った黄金色の瞳を細めていた。

天蓋の柱にくくりつけられた薄布を剥ぎ取り、その大きな体に巻き付ける。

「さて、待たせたかの」

髭を撫でようとしたのか、己の顎に手をやって、空振ったことに苦笑した時の神は、ゆったりと俺たちに近づいてきた。

床から睨みつける月の神を、満足げに眺めている。

「よい格好ですな」

からかうような声音に、月の神の眉が吊り上がった。

「君……っ!」

「まずは、魔女の心臓ですな」

月の神の肉体から出てこようとしていた蒼い塊を、ぐいっと引っ張り出す時の神。

いや、そんなにあっさりと……。先ほどまでの、幻想的だった雰囲気はどこへいった……。

時の神の手の平の上で、光り輝く塊。何かに覆われているように、はっきりとは見えない。

「儂の魔力で、今しばらく保護しておこう」

口の中で何事か呟き、心臓と思われる塊を白く淡い光でくるんだ時の神が、俺に目を向けた。

「お主の手から返してやるのが、よかろう」

にやりと笑う時の神の表情は、髭がないせいか以前よりもしっかりと俺の目に焼き付いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ