4−21
辺りを眩く照らした光が収まると、月の神が呆然と立っていた。
わなわなと華奢な体を震わせ、食い入るように俺を見つめている。
「……何、今の光……」
月の神の呟きが聞こえたと同時に、ヒュンッ、と風を切るような音が俺の耳に届いた。
思わず上を見上げると、遥か高い天井の頂きで空気が渦を巻いているような中心に、ぽっかりと穴が空いていた。何かが、キラリと光って落ちてくる。
「は……?」
物凄い速度で落ちてきたソレは、俺と月の神のちょうど間あたりに、ガキンと音を立てた。
石造りの床に、見覚えのあり過ぎる剣が突き刺さっていた。
俺の、剣……?一体どこから……。
「何、ソレ……どういうことっ?どうしてっ」
月の神が動揺している隙に、剣に飛びついた。
手にしっくりと馴染む柄の感触は、確かにクララに預けてきたはずの、俺の剣だ。
彼女の温もりまでが、剣から伝わってくるようだった。深い海の蒼を思い出す。
片手に短剣は構えたまま、慣れ親しんだ剣を鞘から引き抜いた。
「……あぁ、そういうこと……どこまでも、僕の邪魔をするんだね……っ」
壁の氷の棺と天井を交互に見やっていた月の神が、すべての表情を削ぎ落とした。
こちらを再び見つめるその瞳は、どろりと濁っている。
次の瞬間、強烈な魔力の圧が襲いかかってきた。剣を盾に、青白い光を弾き返す。
二度と、床に膝などつかない。たとえどれほど強大な力を持つ神であろうとも、ここで倒す。
すぐに癇癪を起こすこの神ならば、必ず隙ができるはずだ。見逃すものか。
「また……っ!どうしてっ、僕の力を弾き返せるのっ!」
ぎり、と親指の爪を噛み、裸足の足でだんっと床を踏みしめる月の神は、やはり幼子のようだった。
ふと気づく。あの男神の身を包んでいる魔力の障壁が、ゆらゆらと不安定に揺れていた。
感情の揺れとともに、魔力も安定していないようだ。
こちらを窺い続けるスズシロにチラリと視線を向けた。
俺の意図を汲み取ってくれたのか、僅かに頷くのが見えた。
月の神に視線を戻し、油断なく剣を構えた。神に仕える精霊が、神に弓引くのは想像以上の決意が必要だろうが、彼らの主は時の神だからな。何とか、月の神の守りを崩してもらいたい。
『……今じゃ』
微かに、だが確かに、頭の奥に声が聞こえた。今のは……。
「……っ、お前!」
月の神が氷の棺に注意を向けたその一瞬で、スズシロとスズナが時魔法による攻撃を月の神に飛ばしてきた。
避けようと体勢を崩した月の神へ、距離を詰めて短剣の方で斬りかかる。
「……っ」
俺の持つ短剣を細い腕で弾いた月の神の、がら空きになった胴体へ剣を突きつける。
『心臓を、突き刺せ』
何も考えられなかった。ただ、この相手を倒すことだけを考えていた。
言われるがまま、月の神の白い白い肌に、王たる証を突き刺した。
これまで鍛えてもらった全ての魔力を、剣に込める。
額に汗が浮かぶ。息が上手く吸えない。だが、力の全てを使い果たしても構わなかった。
ズブリ。剣を飲み込んでいく細い胸を、月の神が驚愕に目を見開いて見つめていた。




