4−17
男神が立ち上がった拍子に、その腰紐がするりと床に落ちた。
露わになる真っ白な肌に、視線を縫い止められそうになる。
再び魅了などされないように、警戒しながら目を少し背ける。
と、寝台の奥の壁に何かが飾られているのが見えた。大きな、透明な箱のような……。
俺の視線の先に気づいた月の神が、先ほどまでの激昂などなかったかのように、弾んだ声を上げた。
「あっ、君にも見える?これねぇ、僕の傑作なんだよ」
嬉しそうに月の神が体をずらし、俺の視界に壁一面が映り込んだ。
「……っ!!」
大小様々に並べられた箱に、人影が透けて見える。
ピクリとも動かないその影に、不吉な予感がよぎる。
「ここにはねぇ、僕のお気に入りしか飾ってないんだけど、さっき一つ増えたんだぁ」
細い指で指し示されたその先には、他より少し大きめの箱……いや、氷漬けの……棺?
目を凝らす俺の背後から、悲愴な叫び声が響いた。
「主っ!!」
滅多に感情を出すことのないスズシロの、聞いたことがないほどの絶叫だった。
月の神の寝所の最奥、寝台のさらに奥の壁一面に、氷の棺が飾られている。
その全てに、お気に入りだという者たちの体が収められていた。
どれも皆、一糸纏わぬ裸体で氷漬けにされている。
黒い髪をした少年から青年まで、一体いくつ飾られているのか……。
その中央に、同じく装束を剥ぎ取られ、瞳を閉じた時の神の肉体が閉じ込められていた。
いや、あれは……俺が見知った姿より少し、若返っているような。
引き締まったがっしりとした体躯が、氷越しにもわかる。
だが、スズシロが「主」と呼んだからには、時の神なのだろう。
俺の疑問を感じ取ったのか、楽しそうな月の神が手を叩いて続ける。
「僕はさぁ、美しいモノが好きなんだよ。だから、彼にもお願いしてあったの。僕を愛する時は、見目麗しい姿でね、って」
「……気持ち悪い」
思わず、声が零れた。
同じ神であろうに、人の子と同様に玩具扱いか。
俺の呟きに、月の神が眦を吊り上げた。
「何?今、何て言ったの?」
低い声に、俺は吐き捨てるように再度言った。
「神というのは、聖なる存在だと思っていたが、お前は反吐が出るほど、気持ち悪いな」
「……っ」
ゆらり、と月の神の体から青白い光が滲み出した。
月光のようなその揺らめいた光が、俺に向かって伸ばされる。
だが、俺の体に触れる直前で、その光が立ち消えた。
「!?どうして!?」
だんっ、と裸足で床を踏み鳴らし、月の神がこちらを睨みつける。
そんなことを聞かれても、俺にもわからんが……。
じっと俺を見ていた月の神が、何かに気づいたように目を見開いた。
「……それ……何、その力……何重にも君を覆ってる……」
わなわなと震える月の神が、信じられないものを見つけたかのように俺を指さす。
「どうして、そんなに……神の加護?……火の神に時の神に、光の御子……」
バッと氷の棺を振り返り、忌々しそうに月の神が叫んだ。
「やっぱり……っ、やっぱり裏切ってたんじゃないかっ!僕を愛してると言ったその口でっ、僕を裏切って……っ!」
許さない、と呟いて、月の神が棺に向かって手を振り上げた。




