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薬缶から湯気が立つのを眺めながら、ライカーンが私の指し示した椅子に素直に座っている。
馥郁とした紅茶の香りに目を閉じて楽しんでいるようだ。
棚の底から引っ張り出してきた茶器を並べ、香り高い紅茶を淹れる。
誰かとお茶会なんて、久しぶり。
遠い昔、一緒にお茶を飲んだ相手がいたような……。
「では、お言葉に甘えてクララどのとお呼びしよう」
ゆっくりと紅茶を口に含んだライカーンが、一息吐いて話し出す。
「それで、クララどの。性急で申し訳ないが、砂漠化を止める知恵を授けていただきたい」
「太陽が昇ればいいのだと思うわ」
「……」
それができないから苦労している、と顔に書いてあるわよ王さま。
じっとりとした目を向けてくるライカーンの顔から視線を逸らし、お茶を一口飲む。
「質問を変えよう。太陽は、何故昇らない?」
「神々の戦いという神話を、知っていて?」
質問に質問で返すのは、気分を害するかしら。
けれど、これは聞いておかなくては。
「……遥かな昔、神々がこの世界を創り出す際に起こった、権力闘争の話ではなかっただろうか」
彼の答えに、私は頷いた。
脳筋でも、王族としての教育はきちんと受けているのね。
少し安心した。
「昼を統べる太陽神と、夜を統べる月の神の諍い。どちらがこの世の絶対神となるか、眷属の神々をも巻き込んで長い長い戦いが起こった」
もう一口、お茶を口に含んだ。
「結末は、知っている?」
「確か、時の神の仲裁で昼と夜の時間を半分ずつにして、交互に世界を治めることにした、のではなかったか」
「よくできました」
にっこり笑ってみる。
頬を染めたライカーンが、ソワソワと視線を彷徨わせる。
どうしたのかしら?
気を取り直して、続ける。
「月の神は、交互に世界を支配するのが面白くなかった。いつかこの世のすべてを自分のものにすると、息巻いていた」
空に浮かぶ淡く輝く月の印象とは真逆の、苛烈な性格をしている月の神。
反対に、燃えるような光の太陽神は、心優しく穏やかな神であると言われている。
「自分の支配する時間を長くするには、時の神の力が必要だった。だから、誑し込むことにしたのよ」
「誑し込む……って……」
見開かれた橙色を見つめながら、私は言葉を続けた。
「神さまって、結構血なまぐさいのよ。人間より人間味があるというか……。いえ、私も会ったことはないはずなんだけど」
茶器の乗せられた卓に肘を付き、ため息を吐く。
「まんまと月の神に誑し込まれた時の神は、他の神々に悟られないように少しずつ、夜の時間を長くしていったのよ」
神話には載っていない、この塔の中でだけ語ることのできるお話。
「そうして、夜の時間を長くしていって、とうとう太陽神がこの世に顔を出せないようにしてしまった。だから、太陽は昇らない。昇れないのよ」
私の言葉に、青年王は呆然としていた。




