4−12
ゆっくりと力を入れたつもりだったが、ギギギ、と重たい音を立てて扉が開いた。
室内にいる数人の気配が、一斉にこちらに敵意を向けたのを感じて舌打ちする。
「ちっ!」
短剣を構え、火魔法を放つ。
暗い室内が、橙色の炎で照らされた。
それほど広くない部屋の中、真ん中辺りに大きな寝台が置かれていた。天蓋から垂らされた薄布の向こうで、人影が身動いだのが見えた。月の光を吸い込んで、絹が冷たく光っているようだった。
薄布をめくって男が出てくる。チラリと見えた寝台は、大人が五人は横になれそうな広さだった。
「侵入者か。月の神さまの庭を荒らす不届き者め」
男の言葉に、すぐには反応できなかった。
黒い長髪を背中に垂らし、淡い銀色の瞳を光らせるその男は、何も身につけていなかった。腰元に肌が透けて見えそうなほど薄い布を一枚巻いただけの、情事の後を思わせるような格好だ。
俺より頭一つ分背が高く見える。引き締まった体躯はしかし、肌の病的なまでの青白さのせいで脅威には感じられなかった。何よりも、意思の光を宿すはずの銀の瞳には、生気というものがまったくなかった。
それが、不気味だった。
短剣を構えたまま、室内を窺う。
「侵入者には死を」
男が呟くと同時に、寝台からさらに四人の男が飛び出してきた。
誰も皆、同じような黒髪に銀色の瞳だ。月の神の眷属の証か?
思わず、アサギを振り返る。俺の問いたいことに気づいたのか、ぶんぶんと頭を横に振っている。
まぁ、いい。後で問い質せばいいことだ。
飛び出してきた男たちは、皆一糸まとわぬ裸体であった。いや、腰に布を巻いているのだから、半裸とでも言うべきだろうか。いや、どちらでもいい。
こんな薄暗い部屋の大きな寝台で、何をしていたのかなど、想像もしたくなかった。
武装などしていないが、どんな力を持っているかわからない。
身構えていると、男たちが虚ろな瞳で走り寄ってきた。それぞれ、両手を大きく上にあげ、俺に殴りかかろうとしているようだ。
最初に俺のいる位置まで近づいた男の腹を切りつける。鮮血が飛び、相手が倒れたことに驚く。
「はっ?」
ほんの、かすり傷だぞ?何故倒れた?
考えている暇はなかった。次の敵が、目の前に迫っていた。
四人の男を難なく無力化し、息を吐く。
何だ、こいつらは。何の手応えもなかった。思わず、己の右手を見つめる。握ってみても、いつもと変わらない。
寝台の傍で呆然と立っている初めの男に視線を向ける。
「おい」
「……っひ」
喉の奥から絞り出したような小さな声に、ため息を漏らしたくなる。
「月の神は、今どこにいる?」
俺の問いに弾かれたように顔を上げた男は、蒼白になった顔を横に振り、その場で崩れるように膝をついた。
「そ、そのようなこと、答えると思うか」
「答えねばそれでもいい。お前を倒して先に進むだけ……」
寝台が、ギシリと音を立てた。
「!!」
まだ敵がいたのか。
カツン、と寝台に近寄る俺の足元で、軍靴が不自然なほど高い音を立てる。この部屋で何が行われていたのか、受け入れがたい真実を拒むかのようだ。
短剣を手に、空けてある方の手で慎重に、天蓋から垂らされた薄布をめくった。
「これ、は……」
大きな寝台の中央で、アサギと同じ年頃の少年三人が、破られた装束から血の滲む肌を覗かせながら、身を寄せ合って震えていた。




