表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時果ての魔女  作者: 紫月 京
4章 神の庭にて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/104

4−12


ゆっくりと力を入れたつもりだったが、ギギギ、と重たい音を立てて扉が開いた。

室内にいる数人の気配が、一斉にこちらに敵意を向けたのを感じて舌打ちする。

「ちっ!」

短剣を構え、火魔法を放つ。

暗い室内が、橙色の炎で照らされた。

それほど広くない部屋の中、真ん中辺りに大きな寝台が置かれていた。天蓋から垂らされた薄布の向こうで、人影が身動いだのが見えた。月の光を吸い込んで、絹が冷たく光っているようだった。

薄布をめくって男が出てくる。チラリと見えた寝台は、大人が五人は横になれそうな広さだった。

「侵入者か。月の神さまの庭を荒らす不届き者め」

男の言葉に、すぐには反応できなかった。

黒い長髪を背中に垂らし、淡い銀色の瞳を光らせるその男は、何も身につけていなかった。腰元に肌が透けて見えそうなほど薄い布を一枚巻いただけの、情事の後を思わせるような格好だ。

俺より頭一つ分背が高く見える。引き締まった体躯はしかし、肌の病的なまでの青白さのせいで脅威には感じられなかった。何よりも、意思の光を宿すはずの銀の瞳には、生気というものがまったくなかった。

それが、不気味だった。

短剣を構えたまま、室内を窺う。

「侵入者には死を」

男が呟くと同時に、寝台からさらに四人の男が飛び出してきた。

誰も皆、同じような黒髪に銀色の瞳だ。月の神の眷属の証か?

思わず、アサギを振り返る。俺の問いたいことに気づいたのか、ぶんぶんと頭を横に振っている。

まぁ、いい。後で問い質せばいいことだ。


飛び出してきた男たちは、皆一糸まとわぬ裸体であった。いや、腰に布を巻いているのだから、半裸とでも言うべきだろうか。いや、どちらでもいい。

こんな薄暗い部屋の大きな寝台で、何をしていたのかなど、想像もしたくなかった。

武装などしていないが、どんな力を持っているかわからない。

身構えていると、男たちが虚ろな瞳で走り寄ってきた。それぞれ、両手を大きく上にあげ、俺に殴りかかろうとしているようだ。

最初に俺のいる位置まで近づいた男の腹を切りつける。鮮血が飛び、相手が倒れたことに驚く。

「はっ?」

ほんの、かすり傷だぞ?何故倒れた?

考えている暇はなかった。次の敵が、目の前に迫っていた。


四人の男を難なく無力化し、息を吐く。

何だ、こいつらは。何の手応えもなかった。思わず、己の右手を見つめる。握ってみても、いつもと変わらない。

寝台の傍で呆然と立っている初めの男に視線を向ける。

「おい」

「……っひ」

喉の奥から絞り出したような小さな声に、ため息を漏らしたくなる。

「月の神は、今どこにいる?」

俺の問いに弾かれたように顔を上げた男は、蒼白になった顔を横に振り、その場で崩れるように膝をついた。

「そ、そのようなこと、答えると思うか」

「答えねばそれでもいい。お前を倒して先に進むだけ……」

寝台が、ギシリと音を立てた。

「!!」

まだ敵がいたのか。

カツン、と寝台に近寄る俺の足元で、軍靴が不自然なほど高い音を立てる。この部屋で何が行われていたのか、受け入れがたい真実を拒むかのようだ。

短剣を手に、空けてある方の手で慎重に、天蓋から垂らされた薄布をめくった。

「これ、は……」

大きな寝台の中央で、アサギと同じ年頃の少年三人が、破られた装束から血の滲む肌を覗かせながら、身を寄せ合って震えていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ