4−8
ガキンッ!
剣と短剣がぶつかる音が辺りに響く。
重い。青年がその膂力で振り下ろした剣を、借りている短剣で受けたが、腕が痺れる。
この細い体のどこに、そんな力があったのか。ただの人間ではないのか。
「まさか、我が剣を受け止めるとは……」
片眉を上げた青年が呟く。
「侵入者よ、名は?」
「……答えると思うのか?」
力比べなら負けない自信があったのだが、額に汗が浮かんできた。
痺れる腕にさらに力を込め、青年を見据える。
背後では、俺から託された少年をスズシロが木の陰で介抱しているようだ。
この青年を手早く片づけて話を聞きたかったが、手強そうだな。
相手の剣に圧され、軍靴を履いた足が土にめり込む。
「このまま死なせるのは惜しい力。我が主のために、その力を振るう気は?」
左手で火魔法を発動し、相手に撃ち込みながら後ろに飛び退いて距離を取った。
汗を袖で拭い、再び短剣を構える。
「人の子が、魔法を……?」
片手で俺の火魔法を振り払った青年が、目を見開いた。宮殿の入口だろう扉の脇に整えられていた花壇が、橙色の炎で燃えていた。
軽い火傷を負ったらしい手をさすりながら、青年がこちらを睨む。
「その力、どこで手に入れたか」
虚ろだった銀の瞳に、光が灯ったようだった。だが、俺へ向けられる視線には憎しみのような感情が籠っていた。
「魔力を鍛え、俺は今ここにいる」
慎重に、情報を与えすぎないように気をつけながら答えた。
会話で隙を作り、切り込んでみせる。
介抱されている少年も気にかかる。
「鍛えた?誰が……」
青年が首を傾げた瞬間に飛びかかった。
「っ!」
切りつけた短剣を再び青年が剣で受け止める。その胴に、炎を纏った拳を撃ち込んだ。
「ぐっ……」
体勢を崩した青年の足を払い、倒れた相手の体を膝で押さえつける。
首筋に短剣を当て、上から青年を見下ろした。
「お前も、月森宮の警護の者か?内部はどうなっている?」
「……」
「答えなければ、それでもいい。お前をここで殺して先へ進むだけだ」
俺の言葉に、青年がにやりと笑った。
「!!」
「愚かなことだ。主の庭で、人の子などに成せることなどたかが知れている」
「試してみねばわからんさ。答える気はないのだな?」
俺の問いに青年はゆっくりと目を閉じた。
「……殺せ」
静かな声だった。警護を担う者とは思えなかった。
あの月の神に仕える者が、それほど容易に命を投げ出すとは。
「何故……お前ほどの強さならば、まだ足掻けるだろうに」
「主の不利益になるのなら、我が命など塵に等しい。ここで捕虜となるならば、潔く散ることを選ぶ」
「カーンさま、その者の言う通りに」
後ろから掛けられた声に視線だけで振り返る。
「ここで生かしたままになされば、宮への侵入への追手となりましょう」
「それに、本人が望んでいるなら、そうしてやった方がいい」
「……わかった」
首筋に当てた短剣の刃を、すっと引いた。
上がる血飛沫を避け、息を吐く。
「……ありがとう……」
微かな言葉が、青年から聞こえた気がした。
赤い血で染まってゆく白い衣が、彼を人の子に戻していくようだった。




