4−7
息を切らして走ってきたのは、腕の中に捕らえている少年と同じような容姿の青年だった。
黒い短髪に淡い銀色の瞳。月の神と似ているような気がする。
白い薄衣の長衣を腰元の細い紐で締めている。やはり虚ろな瞳で、こちらを睨んでいた。
「……侵入者?」
先ほどの少年と同じ言葉を呟き、腰に差していた剣を鞘から引き抜く青年に、こちらも身構える。
「それを、お返し願おう」
「仲間ではないのか?それ呼ばわりとは酷いな」
「同僚であったが、主に背く者には仕置きが必要」
理性的に話せるか?交渉次第で切り抜けられるだろうか。
少年の首筋に当てる短剣を、少し動かすと白い肌から薄っすらと血が滲んだ。
「すまんが、時間が惜しい。そこを通してくれるなら、この少年は返そう」
「……ぃや、やめて……助けて……」
縋りつくようなか細い声が、俺の耳朶を打つ。
庇護欲をそそる敵とは、厄介だな。
「助けろとは、できない相談だな。お前も、俺の敵だろう?」
新たに現れた青年から目線を外さないままで答える。
「ちが……違う……国に帰りたい……」
漏らされた言葉に目を見開く。
「国だと?お前は、望んでここにいるのではないのか?」
俺の問いに、ぶんぶんと音が鳴りそうなほど激しく、頭を振る。その激しい動きに、首筋を切り裂きそうになって慌てて少年から短剣を離した。
その瞬間、青年が少年に向かって何かを投げつけてきた。
「……っ!」
額から血を流す少年に言葉を失う。
地に落ちているのは、拳大ほどの石だった。これを、投げたのか?
「外したか。目を潰してやろうと思ったのだが」
「恐ろしいことを言う奴だな」
「主に背く者は不要。仕置きなどと生ぬるいことを言っている段階ではなさそうだ」
「っ、スズシロ!」
背後で構える精霊に、腕の中の少年を突き飛ばして渡す。
と、さらに石が飛んで来た。ただの石ころが、火魔法の攻撃のような威力だ。これが、神に仕える者の膂力か。
ぎりぎりで躱し、短剣を体の前で構える。
石が掠めた頬が、少し切れたようだ。
「俺たちのことも、排除か?」
剣を手にした青年が、少し首を傾げた。
「我が主の庭を荒らす侵入者など、ここで排除する。それは、ついでだ」
スズシロが支えた少年にチラリと目をやって、俺に視線を戻す青年の顔には、何の感情も浮かんでいなかった。
「ならば、押し通る!」
右手で短剣を構え、左手は攻撃魔法を撃てるように空けてある。
ここまで来て、魔力を隠す必要はないだろう。気配に敏いという月の神のことだ。この騒ぎにはもう、気づいているかもしれない。
敵の青年の身のこなしから目を逸らさない。
手練れとの戦いは、一瞬の判断の遅れが仇となる。
華奢な体つきをしている青年からは、戦闘に慣れた空気を感じていた。




