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時果ての魔女  作者: 紫月 京
1章 囚われの魔女と、異国よりの来訪者

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1−6


棚を開ける。

紅茶、珈琲、あとは……花の香りのお茶……。

あの若い王さまには、どれが口に合うかしら?

お茶なんて、淹れるのいつ振りかしらね。

紅茶の茶葉が入った缶を手に、部屋の中を移動した。


この塔までどうやってたどり着いたのか、炎の国が今どのような状態なのか、一気に語り終えた彼は疲れからか唐突に眠り込んでしまった。

そんな警戒心のなさで大丈夫なのかしら。

魔力で彼の大きな体を浮かせ、何故か昔からある予備の寝台に寝かせた。

それから、入口の扉を再び閉ざした。

開いたままでは塔から魔力が溢れ出していってしまう。

私の肉体を動かしている魔力が尽きてしまうと困るわ。

扉を閉める時に、ガチリ、と歯車の填まる音がした。

どうして忘れていたのかしら。この塔の時を止めている時計の歯車。

あの青年王が体当たりした時に、外れてしまったのね。

えっ?人間の体当たり程度で外れたの?大丈夫かしら……。

他に忘れていることがないか、後でちゃんと確かめておかないと。


薬缶に水を張り、お湯を沸かす。

水魔法と火魔法、そんなに魔力を使わない。

茶器はあったかしら。

再び棚を開ける。

と、上階から人の動く気配がした。

「起きたのかしら……」

茶葉の入った缶を手にしたまま、最上階までふわふわと飛んでみた。


彼の大きな体には少し小さい寝台から、身を起こしているところだった。

「起きた?」

そっと問いかけてみると、しばらくぼんやりとしていたライカーンは、ハッとしたようにこちらを見た。

橙色の瞳がとても綺麗。

宝石みたいだわ。…宝石?見たことなんてあったかしら……。

首を傾げ、ゆっくり近寄ってみた。

「……大丈夫?気分は悪くない?」

「ご迷惑をおかけした。これは、魔女どのの寝台か?」

「いえ、それは予備」

「予備?」

こちらを見つめる青年王に、肩を竦めてみせた。

「何故あるのかは、私にもわからないのよ。お茶を淹れようと思うのだけど、飲むかしら?」

「それはありがたい」

左胸に拳を当て、ライカーンは頭を下げてから寝台から立ち上がった。

「手伝いは必要だろうか?」

「手伝い?お茶を淹れる手伝いを、王さまが?」

「これでも手先は器用なほうだが……」

自信のありそうな声に笑いが漏れる。

「それは、武器を扱うとか、戦うとか、そういった方面の器用さじゃあないの?」

「……うーむ」

真剣な顔で考え込むライカーンを手招きする。

「まぁ、いいわ。今日は私が淹れるから、一緒に飲みましょう」

素直に後ろをついて来る青年王は、納得がいっていないような表情を浮かべていた。

「魔女どの……」

「その、魔女どのって呼び方、やめて。私の名前は、クララ……多分……」

ピクリ、とライカーンの片眉が上がる。

「多分?」

「私は貴方の言うとおり、この世の知識を有する魔女だけれど、自分自身のことはよくわからないの」

いえ、魔女という自覚もなかったのだけど。

口の中で呟いた最後の一言は、彼には聞こえなかったようだ。



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