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棚を開ける。
紅茶、珈琲、あとは……花の香りのお茶……。
あの若い王さまには、どれが口に合うかしら?
お茶なんて、淹れるのいつ振りかしらね。
紅茶の茶葉が入った缶を手に、部屋の中を移動した。
この塔までどうやってたどり着いたのか、炎の国が今どのような状態なのか、一気に語り終えた彼は疲れからか唐突に眠り込んでしまった。
そんな警戒心のなさで大丈夫なのかしら。
魔力で彼の大きな体を浮かせ、何故か昔からある予備の寝台に寝かせた。
それから、入口の扉を再び閉ざした。
開いたままでは塔から魔力が溢れ出していってしまう。
私の肉体を動かしている魔力が尽きてしまうと困るわ。
扉を閉める時に、ガチリ、と歯車の填まる音がした。
どうして忘れていたのかしら。この塔の時を止めている時計の歯車。
あの青年王が体当たりした時に、外れてしまったのね。
えっ?人間の体当たり程度で外れたの?大丈夫かしら……。
他に忘れていることがないか、後でちゃんと確かめておかないと。
薬缶に水を張り、お湯を沸かす。
水魔法と火魔法、そんなに魔力を使わない。
茶器はあったかしら。
再び棚を開ける。
と、上階から人の動く気配がした。
「起きたのかしら……」
茶葉の入った缶を手にしたまま、最上階までふわふわと飛んでみた。
彼の大きな体には少し小さい寝台から、身を起こしているところだった。
「起きた?」
そっと問いかけてみると、しばらくぼんやりとしていたライカーンは、ハッとしたようにこちらを見た。
橙色の瞳がとても綺麗。
宝石みたいだわ。…宝石?見たことなんてあったかしら……。
首を傾げ、ゆっくり近寄ってみた。
「……大丈夫?気分は悪くない?」
「ご迷惑をおかけした。これは、魔女どのの寝台か?」
「いえ、それは予備」
「予備?」
こちらを見つめる青年王に、肩を竦めてみせた。
「何故あるのかは、私にもわからないのよ。お茶を淹れようと思うのだけど、飲むかしら?」
「それはありがたい」
左胸に拳を当て、ライカーンは頭を下げてから寝台から立ち上がった。
「手伝いは必要だろうか?」
「手伝い?お茶を淹れる手伝いを、王さまが?」
「これでも手先は器用なほうだが……」
自信のありそうな声に笑いが漏れる。
「それは、武器を扱うとか、戦うとか、そういった方面の器用さじゃあないの?」
「……うーむ」
真剣な顔で考え込むライカーンを手招きする。
「まぁ、いいわ。今日は私が淹れるから、一緒に飲みましょう」
素直に後ろをついて来る青年王は、納得がいっていないような表情を浮かべていた。
「魔女どの……」
「その、魔女どのって呼び方、やめて。私の名前は、クララ……多分……」
ピクリ、とライカーンの片眉が上がる。
「多分?」
「私は貴方の言うとおり、この世の知識を有する魔女だけれど、自分自身のことはよくわからないの」
いえ、魔女という自覚もなかったのだけど。
口の中で呟いた最後の一言は、彼には聞こえなかったようだ。




