3−24
長い長い話を聞き終え、深く息を吐き出す。
時の神の黄金色の瞳が俺を見つめている。
やるべきことは決まった。
月の神からクララの心臓を取り戻し、彼女の身に戻し、太陽神を解き放つ。
それで世界に太陽は戻るだろうが、クララは無事でいられるのだろうか。
「魔力の制御が完璧になったなら、魔女と同じ方法で、儂がお主を月の神の庭に連れて行ってやろう」
ハッと顔を上げる。クララと同じ、圧縮の魔法?
「使えるのか?」
「魔女が扱っているのは、儂の魔力に変換した力じゃ。彼女に使える魔法ならば、儂の中にも知識として蓄えられたはずじゃ」
この老神に、クララにしたように身を委ねるのは何か嫌だな。
えっ?こいつに抱きしめられるのか?それは遠慮したい……。
「何か無礼なことを考えておるような顔じゃが……。まぁ、よい。スズシロとスズナの特訓で、たった二日でそこまで力を扱えるようになったのならば、あと少しじゃろう」
「待て、二日!?」
時の流れる感覚がなくなっていたのは確かだが、二日だと?そんなに特訓していたのか?
目を剥いた俺に、時の神が不思議そうな顔を向ける。
「何じゃ、気づいておらなんだのか。……スズシロ、こやつに飯は食わせたのか?」
声を掛けられたスズシロが目を逸らす。
待て、何故顔を背ける。
「……スズシロ?」
じっとりとした俺の声に、スズナが堪えきれなくなったように笑いを漏らした。
「……ぷっ、くくっ……あ、ごめんなさい、主」
「スズナでもよい。どういうことか答えよ」
「えっと……スズシロは、主が月の神さまを独占しようと決めたことが嬉しくて、ちょっと特訓に熱が入ったと言うか……いえ、嬉しいのは吾もですが」
そう言えば、特訓に入る時にもそんなことを言っていたな。
呆れたようにため息を吐いた時の神の視線を受けて、スズシロが顔を俯かせる。
「この宮では、人の子の時は止まったままです。食事など、最後の夜でもよかろうと……」
せめて確認してくれ。
どっと疲れて、俺は肩の力を抜いた。
長い昔話に凝り固まった体を、伸ばして解す。
「この体が維持できるなら、構わん。スズシロ、スズナ。俺の特訓の仕上げを頼む」
「ほっほ、前向きじゃな。それでこそ、魔女の見込んだ男じゃ」
今までクララの話をしていたはずなのに、改めて言われると顔が熱くなってきた。
得体の知れない神から、面倒な神に格上げだな。
「では、魔力の気配を隠す特訓の再開でございます」
「自在に気配を出したり消したりできるように、感覚を掴んでね」
「……儂は、一度月の神の元へ行ってこよう。あの方が、この企みに気づいておられぬか、確かめねばな」
そう言って、時の神が立ち上がった。
そうだ。月の神は狡猾な神だ。
気づかれずにその住処まで、たどり着かねばならない。




