3−19
床に飛び散った破片が視界に映る。
あれは、部屋に置かれていた卓だろうか。
薄く開いた目を凝らし、辺りを見回す。
黒い石造りの床。同じ材質の壁。飛び散っている卓と椅子の破片。
そして、目を見開いて呆然と立ち尽くす真っ白な精霊。
スズシロとスズナを庇うように、時の神が立っていた。何か、きらきらと輝く膜が張られている。
「……はぁっ、はぁっ……」
息が上手く吸えない。目の前が白く霞む。
何だ?何が起きた?
「お主……」
吐息のような声を漏らして、時の神が呟いた。
「……っ、はぁ……」
呼吸を整えている俺の傍に、時の神が歩いてきた。
「まさか、光の魔力とは……」
「はっ?」
「お主、炎の国の王族だと思っておったが……祖先に、光の御子を持つか?」
何を言われているのかわからなかった。
光の御子?何のことだ?
「何を言って……」
「起源は知らぬ、か。まあ、よい。あの方を弾き返した理由はわかった」
時の神が何を言っているのか、一つも理解できない。
いや、それよりも。この部屋の惨状はどうしたことだ。俺がやったのか?
体の熱さはましになっている。
ふう、と息を吐き出して、その場で立ち上がる。
精霊が身構えたのがわかった。何を警戒されているのかわからない。
時の神が俺から視線を外さないまま、すっと手でスズシロたちを制した。
「なるほどのう。魔女が見込むはずじゃな。いや、あれにも、然とはわかっておるまいが」
「何かあるのなら、はっきり言ってくれ」
俺は、考えるのがそう得意ではないんだ。
クララに関することならば、聞いておきたい。
「うーむ。まぁ、座るか。スズシロ、椅子を直せ」
「御意」
いつの間にかきらきらした膜が消え、スズシロが何もない空間で白い手を翳した。
床に飛び散った破片が、椅子の形へと戻っていく。
あれは、時魔法か?クララが頑なに俺に見せようとしなかった魔法だな。
時の神が椅子に座し、こちらをじっと見つめている。俺も座れということか。
額の汗を袖口で拭い、腰を下ろした。
「スズナ、茶の支度を」
「……御意」
時の神が現れたせいか、スズナもスズシロと同じような無表情に戻っていた。何故だ。
椅子と同じく元の形に戻された卓の上に、スズナが茶器を置いた。
チラチラとこちらを見てくる視線がうるさい。
「さて。まずはお主の魔力じゃが……儂もてっきり、炎の魔力と思うておった。が、どうやら光の魔力のようじゃな」
「そこがまず、よくわからない。魔女は、俺には火と風の適性があると言っていたのだが」
「光の魔力は、人の子に使える力のさらに上の魔力じゃ。お主の内に存在したということは、遥か祖先に、光の御子がいたのやもしれぬ」
「その、光の御子、というのは?」
俺の問いに天を仰ぎ、時の神は言いにくそうに、口を開いた。
「太陽神さまの、神託を受ける者じゃ」
「神託……」
「今では廃れてしもうたが、かつて人の世には、太陽神さまを祀る大神殿が存在した。他の神を祀る神殿は、支殿に過ぎなかった」
スズナの用意した茶を飲み、時の神が一息ついた。
「儂と月の神の結託により太陽が失われ、世界から大神殿は消え去った。光の御子も、行方知れずとなったはずじゃったが、南方に逃れておったか」
南方……俺の国か。
「南に逃れ、そこで子をなし、力を子孫へと受け継がせたのであろう。その末裔が、お主ということじゃ」
習った歴史書に、国の成り立ちはあったが、そんな話は聞いたこともなかった。
「塔にいる魔女は、その力に惹かれ記憶を少しずつ取り戻したのやもしれぬ。あれも、遠い昔には、神殿に住まう者であったからの」
「彼女が、神殿に……?」
「あの魔女は、元は水の国の王女じゃ」
だから何故、そんな重大事をあっさりと……!




