3−16
月の神が、太陽神とクララに執着している?
太陽神はまだわかる。だが、クララへの執着とはどういうことだ?
時の神の言葉の続きを待つ。
「儂は、太陽神さまを尊敬しておる。崇拝しておると言ってもよい。じゃが、月の神のことは、愛しておるからのう」
神の世界には、人の世とは違う倫理観が存在するのだろうか。
男同士であろうと、男女間であろうと、関係ないのか……。
「儂らの愛憎は、人の子のそれとよく似ておる。人の子は、神々が創り出した生命じゃからな」
「愛憎……」
「月の神は、姉神である太陽神さまのことを愛し、憎み、それでも彼女に振り向いてほしいという、屈折した想いを抱えておる。じゃが、太陽神さまが向けるのは、弟への親愛の情のみ。
己だけを見てほしくて閉じ込めたというのに、太陽神さまには二度と会えなくなった。見つめてもらえなくなった。それが、あの方の受けている罰じゃ」
自業自得だろう、そんなもの。たかがそれだけのことを、罰だと?
ふう、と息を吐き、時の神が俺を見る。
「お主は、魔女のことを想うておるようじゃが、それは、男女の愛かの?」
「……っ」
「いや、答えずともよい。儂が言いたいのは、月の神は己だけのものが欲しかったということじゃ。あの方にとって、儂が閉じ込めておる魔女は、月の神がおらねば生き永らえることのできぬ、己のためだけの存在」
叫びだしそうになるのを、堪えた。
クララの意思など無視した神の身勝手さに、体が震えてくる。
「じゃが、心臓を取り上げ、魔力を吸い上げ、儂の力に変換してその肉体に溜め込んでおるうちに、魔女は少しずつ、変容していった」
「……変容?」
「記憶を、正しく保てなくなった」
「!!」
確かに、塔にいたクララは、過去の記憶が曖昧な時があったな。器にされた弊害だったのか。
「三月に一度儂が訪うたび、儂のことを思い出すが、次の訪れまでにはそれを忘れる。そして、訪ねた儂を見てまた思い出す。その繰り返しが続いておる」
「それ、は……」
「このままでは、魔女の肉体は崩壊する。その前に、あれを塔からも月の神からも解放してやりたい。月の神が、儂だけを見てくれるように、な」
そんな勝手な……。
言葉が喉元まで出かかる。
それは結局、神々の都合ではないか。クララの肉体が限界だと?塔から解放した後、彼女は無事でいられるのか?
握りしめた拳に力が入る。
熱が籠って、体が熱い。
「魔女を解放すれば、太陽神さまが復活する。じゃが、そのためには月の神が持つ、魔女の心臓を取り戻し、彼女の肉体に戻してやらねばならん」
心臓を、クララの肉体に戻す。
だが、俺はただの人間だぞ?そんな神の御業のような真似を、どうやって……。
「心臓さえ取り戻せば、魔女の肉体に戻す術は儂が何とでもしてやろう。月の神から心臓を奪い取るほうが、はるかに難儀じゃからの」
それはそうだ、俺は小さく頷いた。
「まずは、この宮で力を蓄え、月の神の元へ行かねばならぬ。あの方の油断を誘う手を儂も考えてみよう。お主はそれまでに、もう少し気配の消し方を覚えよ。今のままでは、月の神にすぐ見つかるぞ」
見つかれば終わり、か。
しかし、気配の消し方だと?自分では得意な方だと思っていたが。
時の神が重々しく告げる。
「お主の魔力は熱く、美しすぎる。月の神が、嫉妬に狂いそうなほどじゃ」
そんなことを言われてもな……。




