3−14
茶を一口飲み、時の神が言葉を続ける。
「儂は儂の罪を贖おう。お主はお主と魔女のため、神との戦いに備えるがよい」
「……お前は、月の神に誑し込まれているんじゃなかったのか?」
そうだ。クララから聞かされた話との相違に、俺は混乱しているんだ。
「そうじゃなぁ……。初めの内は、そうであった」
「初めの内?」
「主は、壁画の太陽神さまのお姿をご覧になって、正気に戻られたのですよ」
後ろから、スズシロが淡々と告げた。
思わず振り返る。
「壁画?正気に戻った?」
「月の神さまが時限宮に来られ、この壁画をご覧になり、激昂されて太陽神さまのお姿を傷つけられました。それを見て、主は正気を取り戻されました」
「スズシロ……そういう話は、儂のおらぬところでじゃな……」
「失礼致しました」
絶対悪いと思ってないだろう、それ。
何だ、この主従は。緊迫した場面ではなかったのか。
いや、俺もたいがい呑気だが……。
コホン、と咳払いを一つして、時の神が俺を見つめる。
「匠の技というものは、人の子の手によるものとて、侮れぬ。月の神は確かに儂を魅了したが、あの絵に描かれた太陽神さまが、傷をつけられた瞬間こちらへ視線を向けたと思ったら、元の儂に戻っておった」
「ならば、何故、月の神にまだ付き従っているんだ?誑し込まれた振りを続けているのか?」
顎髭を撫で、しばらく天を仰ぐ時の神。
やがて、黄金色が俺を射抜くように見た。
「世界から太陽が失われたのは儂の責じゃ。そして、月の神があのように増長しておるのも、儂の咎。それでも、儂にはあの方が可愛いのでな」
最後は吐息のように言葉を漏らして、時の神が視線を下げた。
また、茶を飲む。
「可愛いあの方に、儂が正気であると知れれば再び孤独を味わわせる。それは、不憫でのう」
「では……魔女は不憫ではないと?」
声が尖るのは止められない。止めるつもりもなかった。
「そう睨むでない。こうしてお主に真実を話しているだけでも、あの方にとっては裏切りじゃろう。それでも、儂はお主に力を貸すことに決めた」
「何故だ?」
「……魔女を、解放してやりたいからのぉ」
「解放、だと?閉じ込めたのもそちらだろうに、それを信じろと?」
クララから魔力を吸い上げ、彼女の肉体に溜め込み、せっせと月の神に貢いでいるくせに。
「閉じ込めたのは確かに儂じゃが、心臓を取り上げ、肉体を造り変えて魔力を溜め、太陽神さまを抑え込んでいるのは月の神じゃ」
「それに手を貸したのはお前だろう」
吐き捨てるようにそう言ってやると、時の神が眉尻を下げた。
「じゃから、贖う。魔女を解放し、太陽神さまを復活させ、昼と夜の時間を等しくしよう」
「月の神を裏切る、と?」
俺の問いに、時の神は困ったように顎髭を撫でた。
「儂は、月の神と永遠にともにいたいのじゃ。太陽神さまと魔女への執着を、断ち切りたい」




