3−13
こちらを向いて無邪気な笑顔を浮かべる魔女。
熱砂の国の民が憧れてやまない、海の蒼を瞳に持つクララ。
体当たりして扉を開け、塔に押し入った俺という不届き者に、神話の続きを語って聞かせてくれた女性。
魔力の扱い方を教え、体から魔力を吸われて倒れるというのに、狩りのために塔の外へ出してくれた彼女。
実は料理が上手くない。俺が淹れる茶を美味しそうに飲む。
ふわふわと飛んで、最上階と最下階を行き来する、踊るようなクララの姿が脳裏に浮かんで離れない。
魔力が枯渇するまで訓練してしまう俺の身を案じて、「お仕置き」という名の甘い拷問を俺に仕掛けるクララ。
あぁ、どんな貴方も愛おしい。
今すぐ、会いたい。
貴方の肉体に太陽神を封じているという残酷な事実が、俺の思考を縛り付ける。
記憶が曖昧だったのは、そのせいだったのだろうか。
月の神に怯えていたのは、そのせいか?
許せるわけがなかった。
この世を統べる神であろうと、クララの命を好き勝手に弄んでいい理由になどなるか!
時の神を睨みつけ、体の横できつく拳を握りしめた。
「……話の続きを聞こう」
殺気を抑えるのにこれほどの苦労を強いられるとは思わなかった。
「お主、魔女の想い人か?」
「はっ?」
「この宮に来てからのお主しか見ておらぬが、感情を抑えるのに長けているように見えたが……。激昂するほど、魔女の身を案じておるのじゃろう?」
当たり前だろう。ここに来るまで、彼女がどれだけ力を貸してくれたと思うんだ。
恩を返さねばと思うそれ以上に、愛しい女を助けたい。
だが、馬鹿正直に言ってやる必要もなかった。
「お前には、関係ない」
俺の言葉に、時の神は目を丸くした。
「ふむ。儂に敬意など払わぬ、ということかの」
「神であろうと、人の子の命を軽々しく、玩具のように扱うような輩に払う敬意など持ち合わせん」
きっぱりと言い切ってやると、目を見開いたまま、時の神は低く笑った。
「そうか。魔女の世界を彩り、広げてやれるのならば、やはりお主に力を貸さねばの。
さて、話の続きじゃが……」
話しながら何かに納得したように頷き、時の神は自分の頭をつるりと撫でた。
「太陽神さまを解放すれば、世界に太陽は戻る。力を失っておられるわけではないからの。問題は、封印の解き方じゃ」
クララの中に太陽神が封印されているのなら、解放するには彼女の身が危険ということだろうか。
「まずは、月の神から、魔女の心臓を取り戻さねばならん」
「!!」
またこいつは、重大な事実をあっさりと……。
いや待て、クララの心臓?そう言えば、俺に触れる彼女の指先は、いつも冷たかったな。
体温が低いのかと思っていたが、そもそも温度がなかった?
俺が彼女を抱きしめてしまった時の、あのトクトクという微かな音は、彼女の鼓動ではなかったのか?
そんな状態で、あの塔でたった一人で?
いつも笑顔を見せてくれていたクララの存在が、痛々しく哀しかった。




