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ため息を漏らし、時の神は俺の目を真っ直ぐに覗き込んできた。
「お主、魔女からはどのような話を聞いてここまで来た?」
「……」
クララから聞いた話を、この神に語るのか?罠だったなら、どうする。
悩む俺に助け舟を出したのは、意外なことに、時の神の背後に控えているスズシロだった。
「カーンさま、お話しになられた方がよろしいかと存じます」
「何を……」
「主は、過去を悔いておられます。己の責でもたらされた現在を変えられるのならば、貴方さまにお力をお貸しになるでしょう」
「スズシロよ……そういうことは、儂のおらぬところで、こっそりと告げてやるものじゃぞ」
頭を抱えた時の神に、表情も変えずにスズシロが頭を下げた。
「失礼致しました。お二人だけでは、話が進まなさそうでしたので」
「それは認めよう。儂のような狸に、腹の内を明かせぬお主の態度も、もっともじゃからな」
こちらを見つめる黄金色の瞳。
壁画に描かれた太陽神の髪色と同じ煌めきだな。
静寂を破ったのは、やはり時の神だった。
「儂の知る昔話を聞かせたなら、お主の警戒も少しは解けるかのう……」
「昔話?」
「儂の想い、儂の罪。そして、あの方への罰。そんなところじゃ」
この老神が「あの方」と呼ぶのは、月の神のはずだ。
罰、だと?一体、あの癇癪持ちの神が、どんな罰を受けているというんだ。
「あの方は、生まれた時から太陽神さまと比べられて育った。出来がよく皆を明るくさせる姉、不器用で他者との付き合いも下手な弟。周りは誰も彼も、太陽神さまを褒め、太陽神さまを愛する。自分の周囲には、誰もいない。孤独で哀れな子供であった」
神話に描かれた太陽神の印象も、確かにそうだな。だが、月の神はどうだったか。
あまり覚えていない。
「神話は習った。だが、月の神の印象はあまりない」
俺の答えに、老神が重々しく頷く。
「そこじゃ。それが、あの方には面白くなかった。同じ時に生まれ、同じように世界を統べるはずの自分が、何故誰からも顧みられないのか。あの方には理解できなかった。理解させてやる者が、周りにおらんかった」
時の神が語っているのは、確かに哀れな子供の話に聞こえる。
だが、それとクララを閉じ込め、太陽を世界から失わせたこととは別の話だ。
続きを促すように、時の神を見据える。
「あの姉弟は、お互いを想い合っておるくせに、それを伝えられない不器用さがそっくりじゃった。そこで、儂は弟神にほんの少し、手を貸してやることにした」
どこを見つめているのかわからない目をして、時の神が天を仰ぐ。
「まさか、人の子を利用して、太陽神を抑えるための魔力を溜めろと言われるとは、思わなんだ……」
「!!」
クララ……っ。
貴方が何故閉じ込められているのか、この老神から聞き出してみせる。
真実をすべて語っていなくとも、手がかりくらいは掴んでみせよう。




