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彼の顔を覗き込んでいると、ハッとしたようにその場に跪いた。
深く頭を垂れるその様子に、驚く。
「失礼した、時果ての魔女どの」
「……」
「我が名は炎の国の王、ライカーン=シェールズ。先王の後を継ぎ戴冠の儀を済ませ、この北の果てまで旅してきた」
目を伏せたまま名乗る青年に、驚きを隠せなかった。
戴冠式は今日だったはず。先ほど、炎の国の本を読んだのではなかったかしら。
いいえ、あれは随分前のことだったの?
記憶の欠片がぽろぽろと零れるような感覚に気持ちが悪くなりながら、青年王の言葉の続きを待つ。
「世界から太陽が失われて久しい。我が国は、すでに国土の半分が砂漠になろうとしている。魔女どののお知恵をお借りしたく、ご無礼を承知で塔に押し入った。処罰はいかようにでも」
潔い態度に好感が持てた。
「私の……どんな知恵をお望み?」
声が震えないようにするのが精一杯だった。
何百年も、人と会話なんてしていないのだから、許してほしいわ。
私の言葉を会話への許可と取ったのか、青年王ライカーンが顔を上げた。
「寛大なお言葉に感謝を」
微笑む青年は心の底から安堵したような瞳をしていた。
吸い込まれそうな、橙の瞳。
失われた太陽のような、温かい瞳だった。
「太陽が天に昇らなくなって、およそ三百年。その原因と、どうすれば太陽が再び昇るか、そのお知恵を拝借したい」
答えを教えるのは、簡単だった。
だって、私はその答えを知っている。
でも、この青年王を信じてもいいのかわからない。
胸に手を置き、一つ息を吐いた。
「その答えを知ったなら、貴方はどうするの?」
「無論、国を守るためにその知識を使わせていただきたい」
「世界をその手にしよう、とか、そういう野心はないの?」
私の疑問に、彼は目を丸くした。
そんなこと、考えたこともないという顔だ。
「世界などという大それた物は、この手に余る。俺は、俺の国を豊かに守れればそれでいい」
実直な言葉だった。
そして、信念も感じられた。
自分の国を守るために、こんな最北の地まで一人で……。
一人でやって来たの?一国の王が?
「貴方……一人?お供はいないの?」
首を傾げる私に、ライカーンが頷いた。
「国土の半分が砂漠に飲み込まれようとしている今、この北の地まで旅できるほどの実力者が俺の他にはいなかった。これでも、腕に覚えはある」
……脳筋、というやつかしら。
どこかの本に書いてあったわ。
えっと、脳内まで筋肉?読んだ時はよく意味がわからなかったんだけど。
「……魔女どの、何か失礼なことを考えておられないか?」
「あは……」
頬に手を当て、誤魔化すように笑う。
「とにかく、そういう理由で俺はこの塔で貴方にお会いしたかった。初日に会えたのは運が良かった」
ほっと胸を撫で下ろすような仕草を見せる青年が、少し可愛かった。




