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通されたのは黒い石造りの、それほど広くはない部屋だった。
スズシロというこの、男なのか女なのかもわからない白い存在は、淡々と俺を案内した。
神に仕える者というのはこういうものなのだろうか。
俺の祖国の神殿の神官たちは、もう少し感情というものが見えていたが。
人間と、人ならざるモノの違いだろうか。
そんなことをつらつらと考えていると、俺に向かって室内を指し示した。
「こちらで、しばらくお過ごしいただきますが、主のお客人であらせられるので、ご不自由なきように務めます。何かございましたなら、いつでもお呼びください」
それと、とスズシロが言葉を続ける。
「この宮の内は、どこを見ていただいても結構でございます。貴方さまが入ることのできない神域は、主の結界がございますので、入れるところはどこへでも、足を踏み入れていただいて構いません」
これはまた、大盤振舞だな。俺など、警戒するに値しないということか?
「お食事は、えー……供物の中からご用意致しますので、しばらくお待ちくださいませ」
何だ、途中の間は。心配になるだろうが。
いやいや、待て。それは時の神に捧げられた供物ということか?そんなもの、人間の俺が食べて大丈夫なんだろうな。
だが、クララの塔からここまで、糧食など持ち込めてはいない。
幸い、この体は毒には馴らされているから、耐性はある。おかしなものを出されても、二、三度なら平気だろう。その間に、この時限宮の内部を探ってしまうか。
出入りは自由と言われたことだしな。
「それと、申し訳ないのですが、その纏っておられる風魔法は解除していただきたく存じます」
「!!」
思わず、自分の胸元あたりに手をやる。
魔法の防御を、解け……?それは、この空間で丸腰で過ごせということか。
「魔法を使っておられる間、貴方さまの魔力は回復致しません。お世話をさせていただく者の中には、風と相性がよくない者もおりますので」
「……お前がこの部屋を出ていった後、身の安全が俺自身で確認できたなら、だ」
俺の出した条件を反芻するように、口の中で呟いている。
しばらく思案した後、スズシロは小さく頷いた。
「かしこまりました。では、そのようにお願い致します」
それだけ告げて、案内してきた時と同じように何の感情も見せずにスズシロは部屋を出て行った。
ふうーっ、と深く息を吐き出した。
いや、呆けている暇はない。一人になれた今が絶好の機会のはずだ。
風魔法の障壁は解かずに、時限宮の中を探るべく、俺は扉から廊下を見渡した。
誰もいない。物音一つ聞こえなかった。
足音を立てないように、慎重に一歩を踏み出した。




