3−5 クララ
ゆっくりと、目を開けてみた。
魔力が空っぽなのを感じる。
あぁ、そうか。時の神が来たのね。
ピリッとした痛みを感じて、頬に手を当ててみる。
切れてるわ。どうしてかしら?
横たわっていた寝台から起き上がると、腕と背中にも痛みが走った。
首を傾げて、立ち上がる。
鏡なんて、あったかしら……。
螺旋階段をゆっくりと降りる。
魔力がないから、飛べないのが不便だわ。
えーっと、確か下の階に鏡が掛かっていたと思うのだけど。あ、あったわ。
本棚と本棚の間の壁に、小さな鏡が掛けられていた。
近寄って、自分の姿を映してみる。
やっぱり、頬が切れているわね。
袖をまくってみると、腕にも切り傷があった。この分だと、背中も切れているのね。
「……痛いわ」
呟いてみる。
魔力が戻れば、傷は塞がる。
特にすることもないのだし、書物を読みながらごろごろしていようかしら。
階段に視線を移しかけて、窓際の上着掛けが目に入った。
「……?」
違和感を覚えて近づいてみる。
見覚えのない、赤い外套が掛けられている。
大きさからいって、男物ね。どうして、こんなところにあるのかしら。
いえ、ここに掛かっているのなら、私がやったのよね?
どういうこと?
ズキリ、と頭の奥が痛んだ。
「っ!」
そっと、外套に手を触れてみる。
「……あたたかい、気がするわ」
変ね。この肉体は、温度など感じないはずなのに。
どうして、こんなに、泣きたくなるの?
……私の王さま、無事に戻ってきて……。
!?
今のは、私の心の声?
胸に手を当ててみた。鼓動など聞こえないのに、トクトクと脈打っているように感じられる。
他にいつもと違うことはないかしら。
魔力の戻っていない気怠い体で、私は塔の中を歩き回った。




