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クララは今、どうしているだろうか。
勧められた茶に手をつけず、押し黙ったままの俺に何を思ったのか、時の神はふっと笑いを漏らしてどこかへ歩いていった。
視界の端で、白い小人たちがせっせと茶器を片づけている。
これは……精霊、だろうか。物語で読んだことはあるが、初めて見た。
体に風魔法の障壁を纏ったまま、辺りを見渡す。
クララと過ごした塔とは違い、天に浮かぶ月明かりが、陽の光のようにあたたかく照らしている。
……陽の光だと?あれは、太陽か!?
思わず立ち上がり、その拍子に卓の角で膝を打ち付けた。
「〜〜〜っ!」
声にならない声を堪え、それでも上を見上げていると、時の神がゆったりと戻ってきた。
痛みを我慢しながら身構えた。
「これは、スズシロ。お主の身の回りの世話をさせよう」
「……」
時の神の後ろに控えていた白っぽい人影が、すっと進み出てきた。
「スズシロと申します。ようこそお越しくださいました、人の子」
「名を名乗れとは言わん。儂のことなど、信じられぬと顔に書いてあるでな。じゃが、ここから出してやることも今はできぬ」
「……」
何と答えるべきか。いや、答えなど返さないべきか。
迷う俺の目の前に、スズシロと名乗った従者が歩んできた。
「っ!」
白い髪を真っ直ぐに伸ばし、耳の横で一つに束ねている。こちらを見上げる瞳は虚ろで、空洞のようだ。
時の神と同じような白い紗でできた、上下に分かれた装束に身を包んでいる。
「お部屋へ、ご案内致します」
「いや、結構だ。敵地の奥深くに入り込むつもりはない」
「ほっほ、敵地ときたか。ならば、お主は神と戦うためにここまで来た、と?」
面白そうな響きを声に乗せた時の神を、睨みつける。
そうだ、これは敵のはずだ。調子を崩されるな。
「傲慢なお主に、一つだけ、教えておこう。あの方は、しばらくここへは戻られぬ。絶対神などという面倒な立場を手に入れて、予想外の忙しさに苛立っておられる」
月の神のことか?
絶対神になることに手を貸したのは、自分であろうに。
「ここへは、疲れを癒しにやって来られる。ここにおれば、儂が甘やかしてやるからのう」
やはり祖父と孫のような関係だな。だが、癇癪持ちに見えた相手を甘やかすとは。
正気に見える。見えるが、やはりどこかおかしいのか?
油断するな、俺。ここは、神の住処だ。己の常識を当てはめるな。
「あの方が戻られるまで、退屈な儂の相手をしていてもらおう。魔女の話も、できれば聞かせてもらいたい」
誰が話すものか……!
クララを閉じ込めている奴に、何故情報を与えねばならん。
唇を噛みしめる俺を面白そうに見て、時の神はくるりと体の向きを変えた。
「では、スズシロ。後は頼んだぞ」
「御意」
恭しく頭を下げて、何も映していないような真っ暗な瞳がこちらを見た。




