1−3
バタンッ!!
静寂が流れていた塔の内部に、扉が外から開かれた音が盛大に響いた。
あぁ、びっくりした……。
塔の吹き抜けのちょうど真ん中ぐらいで、フワフワと浮かんだまま、私は入口に目を凝らす。
温度も湿度もなかった塔の中に、吹雪が冷たい空気とともに吹き込んでくる。
冷たい空気?いえ、そんなもの、もう感じないはずなのだけれど。
黒い軍靴のつま先が、扉の向こう側から覗いていた。
「……誰か、いないのか……?」
問いかけられた声は、耳に心地よい低いものだった。
低音って、好きなの。あら?どうしてだったかしら……?
そんなことを考えていると、扉から誰かが中に入ってきた。
足元を確かめるように、一歩ずつ、慎重に踏み入れている。
どうしようかしら。
声を掛けてみたら面白い?
いえ、あれが何者かわからないのに、そんな迂闊なことをしてはダメよ。
自分に言い聞かせ、もうしばらく様子を見てみることにする。
赤い外套を身に纏った青年が、塔の中に顔を見せた。
淡い金髪、褐色の肌、橙色の瞳の年若い美丈夫。
炎の国の新国王……?
いえ、決めつけるのはよくないわね。今日は戴冠式じゃなかったかしら。
でも、あの色は炎の国の王族の特徴のはずだわ。血縁?
頭の中で様々に思考していると、侵入者がふと上を向いた。
「……!」
「誰か……誰もいないのかっ?」
私の姿が見えたわけではなさそうで、安堵の息を吐いた。
彼が階段を見つけたなら、一気に登ってきそうだわ。
最上階で待っていようかしら。
でも、扉を開けられてしまって、魔力が思うように扱えない。上まで飛べるかしら。
ぐっ、と体の横で拳を握りしめ、外から来た青年が塔の中央へと歩みを進める。
その視線が、螺旋階段に縫い止められた。
何かを決意したような瞳で、上を見据えながら、彼が階段に足をかけた。
私は慌てて体に魔力を巡らせる。
最上階まで、一息に飛ぶ。
苦しい。魔力を使いすぎた。
寝台にふらふらと倒れ込み、じっと息を潜めて青年が上がってくるのを待った。
カツン、と軍靴の足音が響く。
気怠さを押し殺して、階段のほうへと目をやった。
橙色の瞳を丸くした青年が、立ち尽くしている。
そうね、最上階にはこの部屋しかないものね。階段から、壁際の本棚の傍に置かれた寝台なんて、よく見えるわよね。
怠惰な動きで起き上がる。
「……どなた?」
私の問いに、青年は答えない。じっと、私のほうを見つめたままだ。
焦れた私は、寝台から立ち上がって、階段のほうへ近づく。
「貴方は、どこのどなた?」
「……っ!」
青年の目の前まで一瞬で距離を詰めてやった。
尋ねているのに答えないのがいけないのよ。
侵入者はそちらなのだから。
少し意地の悪い気持ちになりながら、彼の返事を待つことにした。




