2−11
ようやく落ち着いたのか、ライカーンが腕の中から出してくれた。
ふぅ、びっくりしたわ……。
この王さまは時々、とても距離が近いのよね。
こういうのを、無自覚たらし、って言うのかしら。
「……クララどの、また何かズレたことを考えているようだが……」
「えっ?」
どうしてわかるのかしら。
真剣な顔をして、ライカーンが頭を下げた。
「どうしたの?」
「勝手に貴方に触れた。あまつさえ抱きしめるなど、婦女子に対して失礼であった」
潔いけれど、何かしら、何だか寂しい。
「気にすることはないわ。人間は、不安になる生き物だもの。貴方が落ち着いたなら、それでいいのよ」
どうしてそんなに、微妙な顔をするのよ。気にしなくていいと言っているのに。
大きく頭を振って、ライカーンは私をじっと見つめた。
「貴方に魔法を教わって、俺は時の神の住処へと飛ぶ、という話だったが。月の神は、どこにいる?」
「月の神?」
「貴方を囚えているのは、月の神なのだろう?」
「いえ、時の神よ?」
私の答えに、ライカーンは首を傾げる。
「だが、貴方は月の神へ魔力を奪われている、と」
「時の神が、貢ぐためにね」
肩を竦め、私はどう説明しようか悩んだ。
この塔を作ったのは時の神で、入口を魔力の詰まった時計で封じているのも時の神。
私から吸い上げた魔力を塔の内部で熟成させ、月の神へ捧げるための力に変換し、器であるこの肉体に溜め込んでいる。
そして、三月に一度、時の神が自ら取りにやって来る。
私は魔力を空っぽにされてしばらく動けなくなるけど、魔力はまた満ちるから、これまでは問題なかった。
ライカーンの夢を見てから、急に思い出せたわ。どうしてかしら。
時の神がここへ来るのは、次は来月の終わり。
それまでにライカーンの魔法の扱いを完璧にして、時の神が住処へ戻るのについて行かせる予定だった。
私が魔力で包んで、小さな、ほんの小さな水晶石の欠片に、空間魔法で圧縮させたライカーンの極小の肉体を押し込んで、時の神の住処まで飛ばすつもりだった。
けれど、彼を狩りに出すために、何度か魔力が尽きかけてしまった。
月の神は、私の魔力が溜まるのを監視しているのだから、もっと警戒していなければいけなかったのに。
悔やむ私の説明を黙って聞き終えたライカーンは、顎に手を当て考え込んでいる。
そして、顔を上げた。
「貴方が想定しているその方法で時の神の住処へ行けたとして、そこからは?」
「時の神の住処、時限宮というのだけれど、そこに着いたら、押し込めた水晶石の欠片から貴方の肉体が解放されるように、石に魔法陣を描いておくつもりだったわ」
「つまり、時の神の帰宅に合わせて、俺がいきなり現れる、ということだな」
そうなんだけど、何か……まぁ、いいわ。
「そこからは、貴方次第。時の神と対話できるか、正気に戻せるか、できなければ、無事に帰ってこられないかもしれない。それでも行く、という強い意志を貴方は宿していたから」
私の言葉に、彼は深く頷いた。
「危険があることなど、百も承知でここまで来た。だが、そうか……対話できなければ、命の保証はなしか」
「話など聞かずに、時限宮を放り出されるだけなら、戻ってこられると思うのだけど……」
相手は神なのだ。危険なのは当たり前だった。




