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寝台に寝転びながら、私は痛みが引くのを待っていた。
心臓なんてもうないのに、痛みだけは与えてくるから、忌々しい。
手招きするように軽く、右手を振ってみる。
古びた書物の匂いを漂わせながら、漆黒の表紙の本が、棚からフワフワと飛んできた。
『無時域の書庫』
金の箔押しがされたその題名の本には、私を閉じ込めているこの塔の成り立ちが書かれているはずだった。
だけど、私には読めない。
この書庫のすべての知識は、私の中に蓄積されているけれど、この本だけが読むことができない。
私が私自身のことを思い出すのを、防ぐためらしい。
この塔ですでに数百年を過ごしているのに、今さら……。
ふと、誰かに呼ばれたような気がして、起き上がった。
こんな最果ての塔になんて、誰も来るはずがないのだけど……。
首を傾げながら、窓際に立ってみる。
ガラス張りの向こうに見える、薄闇の世界。
この塔の建っている岬は、エグラール大陸の北、大地の国に面している。
雪に閉ざされた国は、他国との国交も積極的には行っていない。
「……?」
生き物の気配など何も感じられない。
どうして、呼ばれたような気がしたのだろう。
外から目を逸らし、呼びつけた本を本棚へと追い払った。
何か新しい知識は来ていないかしら。
ガチリ、何か金属音が頭の中に響いた。
時計の歯車が外れるような、機械的な音。
どこから聞こえてきたのか。
いえ、待って。時計の歯車……?
塔の中央を螺旋状に伸びている階段に目をやる。
まさか……。
今いる最上階から、吹き抜けを真下まで見下ろす。
誰もいない無機質な空間。
ふわり、と身を投げ出し、ゆっくりと一番下まで降りてみた。
下まで落ちていく間、びっしりと壁を埋め尽くす本棚が視界の端に映る。
すべての知識は、私の中にある。
固く閉ざされた、表の入口。
古い金の時計が設置されていた。
恐る恐る、近づいてみる。
何の音もしない。気のせい?
ガンッ!
再び、今度ははっきりと、扉を叩く音が耳に直接聞こえた。
「……っ!」
いえ、これは、叩いたというよりも蹴っているような……?
扉から少し離れる。指を顎に当て、しばらく見つめていると外から体当たりでもしているような大きな音が響いた。
この塔の入口を、力技で開けようとする者がいるなんて。
魔法で閉ざされた扉を、体当たりで?どんな阿呆が来たのかしら。
面白くなって、自然と口角が上がる。
あぁ、でも、ここにいるよりも最上階で待っていたほうが、楽しいかしら。
上を見上げる。ちょっと高いわね。
足に魔力を込めて浮いてみた。
最上階まで飛ぶのもいいけど、ここで滞空したまま侵入者を待つのもいいかもしれない。
久しぶりに感じる誰かの気配に、私はワクワクしていた。




