2−8
ふわふわと浮かんでいるような心地がする。
夢でも見ているみたい。
……夢……?
私、眠っているのかしら。
睡眠なんて、この肉体は必要としていないのに?
目を開けているのか閉じているのかもわからない。
心地よい薄闇。
ゆらゆらと揺れて、何か温かいものに包まれている。
私の体の中心に、熱を感じる。
……熱……?
どうしてそんなもの感じるのかしら。
心臓は奪われているのに……奪われた?
どうしよう、混乱しているわ。
私は誰で、どこにいるの?
思い出せない過去に、何があったのかしら。
何とか記憶を取り戻して、彼に教えてあげなくちゃ。
……彼……?
あぁ、そう。
淡い金色の髪を揺らす、褐色の肌の、宝石みたいな橙色の瞳の、王さま。
たった一人で無為に過ごしていた私の元へ、強い生命の輝きを放って現れた、脳筋の王さま。
心配そうにこちらを見つめる眼差しが、私を人間の世界へ引き込んでしまいそう。
だけど私は、ただの器。
塔に一度吸い上げられ、時の神の魔力に変換されたそれを、留めておくための、人形のようなもの……。
彼には彼の世界がある。
太陽を取り戻して、彼は帰らなくちゃ。
私が、帰してあげる。
こんな世界の果てで、独り占めしていてはいけないわね。
『……ラどの』
誰かが呼んでる。
優しい声。
私を現実へ引き戻す、低く力強い声。
『……ララどの』
あぁ、彼の声だわ。
もっと聞いていたい。
「クララどの」
ゆっくり開けた目に飛び込んでくる、橙色。
あぁ、この瞳が、私は好きなのね。
一人きりだった私の世界に彩りをくれた、優しい王さま。
「ライカーン」
確かめるように名前を呼ぶと、顔を綻ばせた。
「よく眠っていたようだ」
「……そうね。どうして眠ったのかしら」
「疲れていたのではないか?あまりに静かなので、上ってきてしまった」
眉を下げる表情が可愛い。
くすっと笑って、私は寝台から身を起こした。
すかさずライカーンが背を支えてくれる。
王さまなのに、どうしてこんなに、誰かの世話を焼くのに慣れているのかしら。
ちょっと妬けちゃうわ。
「何だか、夢を見ていたような気がするわ」
「夢?」
彼が差し出してくれた水の杯を、ゆっくりと傾ける。
「貴方の夢」
「……っ」
あ、橙色を丸くしているわ。
「お、驚かさないでくれ」
「驚いたの?」
私から水の杯を受け取って、彼が視線を逸らす。
耳の先が赤いような気がする。
えっ、何かに照れたの?
「ライカーン、耳が赤いわ」
伸ばした手は、彼の耳に触れる前に捕まってしまった。
「ク……クララどの」
「どうして、そんな顔をしているの?」
「貴方に触れられたら、冷静ではいられない。だから……」
「触れてはダメ?」
私の言葉に、ライカーンが固まった。
「ライカーン?」
「……っ、それは……反則だろう……っ」
反則って、どういうこと?




