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時果ての魔女  作者: 紫月 京
2章 通いはじめた心

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29/102

2−8 


ふわふわと浮かんでいるような心地がする。

夢でも見ているみたい。

……夢……?

私、眠っているのかしら。

睡眠なんて、この肉体は必要としていないのに?


目を開けているのか閉じているのかもわからない。

心地よい薄闇。

ゆらゆらと揺れて、何か温かいものに包まれている。

私の体の中心に、熱を感じる。

……熱……?

どうしてそんなもの感じるのかしら。

心臓は奪われているのに……奪われた?

どうしよう、混乱しているわ。

私は誰で、どこにいるの?

思い出せない過去に、何があったのかしら。

何とか記憶を取り戻して、彼に教えてあげなくちゃ。

……彼……?


あぁ、そう。

淡い金色の髪を揺らす、褐色の肌の、宝石みたいな橙色の瞳の、王さま。

たった一人で無為に過ごしていた私の元へ、強い生命の輝きを放って現れた、脳筋の王さま。

心配そうにこちらを見つめる眼差しが、私を人間の世界へ引き込んでしまいそう。

だけど私は、ただの器。

塔に一度吸い上げられ、時の神の魔力に変換されたそれを、留めておくための、人形のようなもの……。

彼には彼の世界がある。

太陽を取り戻して、彼は帰らなくちゃ。

私が、帰してあげる。

こんな世界の果てで、独り占めしていてはいけないわね。


『……ラどの』


誰かが呼んでる。

優しい声。

私を現実へ引き戻す、低く力強い声。


『……ララどの』


あぁ、彼の声だわ。

もっと聞いていたい。


「クララどの」

ゆっくり開けた目に飛び込んでくる、橙色。

あぁ、この瞳が、私は好きなのね。

一人きりだった私の世界に彩りをくれた、優しい王さま。

「ライカーン」

確かめるように名前を呼ぶと、顔を綻ばせた。

「よく眠っていたようだ」

「……そうね。どうして眠ったのかしら」

「疲れていたのではないか?あまりに静かなので、上ってきてしまった」

眉を下げる表情が可愛い。

くすっと笑って、私は寝台から身を起こした。

すかさずライカーンが背を支えてくれる。

王さまなのに、どうしてこんなに、誰かの世話を焼くのに慣れているのかしら。

ちょっと妬けちゃうわ。

「何だか、夢を見ていたような気がするわ」

「夢?」

彼が差し出してくれた水の杯を、ゆっくりと傾ける。

「貴方の夢」

「……っ」

あ、橙色を丸くしているわ。

「お、驚かさないでくれ」

「驚いたの?」

私から水の杯を受け取って、彼が視線を逸らす。

耳の先が赤いような気がする。

えっ、何かに照れたの?

「ライカーン、耳が赤いわ」

伸ばした手は、彼の耳に触れる前に捕まってしまった。

「ク……クララどの」

「どうして、そんな顔をしているの?」

「貴方に触れられたら、冷静ではいられない。だから……」

「触れてはダメ?」

私の言葉に、ライカーンが固まった。

「ライカーン?」

「……っ、それは……反則だろう……っ」

反則って、どういうこと?



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