2−6
『……ちょ……っ!嘘でしょ……っ?』
戸惑ったような声が遠くなっていく。
うっすらと目を開けると、駆け寄ってくるライカーンの姿が目に入った。
何かしら……何か光ってる……?
あ、躓いた。転ばないかしら……。
彼が躓いた瞬間、天に向かってライカーンの体から光が溢れ出した。
『なんで……っ、ただの人間が……っ!』
何か喚いてるわ。
どうしたのかわからないけど、忌々しい気配が消えていくことにほっとする。
「……クララどのっ!」
荒い息のまま、私の傍に膝をついた彼は、身に纏っていた外套で私の体を包み込んだ。
「……お帰りなさい」
「何があった!?」
蒼白な顔。いつもより、心配をかけちゃったわ。
「ごめんなさい、だいじょう……」
「大丈夫ではないっ!」
震える声で叫ぶという器用な真似をした王さまは、私の体を抱え上げた。
あら、また寝台まで運ばれちゃうのかしら。狩りから帰って来た後の、日課みたいね。
なんて呑気なことを考えていたのがいけなかったのかしら。ライカーンの眉間の皺がみるみる深くなっていく。
「とにかく、横になってくれ。それから、傷の手当てをする」
反論は許さないとでも言うように、私の体をしっかりと抱え込んで、揺らさないように階段を駆け上がった。
やっぱり器用ね。
流れる血はすでに止まった私の頬に、ライカーンがそっと触れた。
「消毒薬はあるか?」
「……ないんじゃないかしら」
「酒でもいい。度数の高いものはないか?」
「お酒なんてどうするの?飲むの?」
私の返事に、ライカーンがその場で膝から崩れ落ちた。
「何故、そうなる……」
「お酒は飲むものでしょう?」
「……もういい。横になっててくれ。俺が探してくる」
そう言って、私の頬に清潔な布を当てた後で背を向けるライカーン。怒ったのかしら。
「ライカーン?」
「じっとしててくれ。頼むから」
どうしてそんなに、泣きそうな声を出すのかしら。
脅威は去ったのよ。
伝える前に、彼は下へ降りていった。
月の神が影を飛ばして、塔まで出張ってくるなんて。
お陰で思い出せたことがいくつかある。
私の魔力は、月の神に捧げるために、この塔で吸われている。
この塔に集まってきた知識が本の形を取って、この無時域の書庫に収められているのは、時の神が月の神のためにこの世界を監視するため。
人間が神話の真実に気づき、太陽神が復活するのを防ぐため。
この塔は、世界の監視という役目を持った時の神の領域だったのだ。
どうして忘れていたのかしら。
いえ、忘れさせられていたの?
ライカーンが現れたことで、記憶の蓋が外れ始めた……?
そう言えば、表の入口の歯車も、外れたんだったわね。
彼、何者なのかしら。
強大な力を持つはずの月の神を、いくら影とはいえ弾き返すなんて。
弾き返したのよね?そう見えたけど。
彼から溢れ出したあの光は、一体何だったのかしら。
あぁ、考えなくてはいけないことが多すぎて、目が回りそうだわ……。




