2−1
ライカーンが魔法の訓練を始めて二週間が過ぎた。
お茶を淹れるのが随分上手になってきた。
最初に淹れてくれた紅茶は、それはもう……渋かった。
外への狩りには、二度行かせた。
私が倒れる度に顔色を真っ青にさせていたけれど、仕方ないことと諦めてほしいわ。
そろそろ、彼の食料が尽きてくる頃かしら。
前回は、雉の肉と木の実を採ってきたけど。
水魔法と風魔法を使って洗った襯衣を身に着けて、床の上にあぐらをかいて座り、目を閉じているライカーンを少し離れて見守る。
「灯せ」
呟いた彼の手の平の上に、塔の中を明るく照らすほどの大きさの炎が浮かんだ。
「撃て」
続けられた彼の言葉で、壁際に置かれた木の的の真ん中を、橙色の炎が矢のように撃ち抜いた。
「凄いわっ!」
思わず、声を出した。
振り返ったライカーンも、嬉しそうに笑っている。
「これで、火魔法はばっちりね!」
「貴方のお陰だ。これで、時の神の住処へ行けるのだろうか」
「……うーん。ちょっとまだ、早いわね。火魔法は攻撃に長けた魔法だから、防御も身に付けないと」
「そうか……」
がっかりしたように肩を落とす彼が可愛い。
そうしていると、年相応に見えるわね。
ぽんぽん、と彼の肩を叩き、手巾を手渡す。
「ほら、落ち込んでいる暇はないわよ。汗を拭いて。次は風魔法よ」
「あぁ、そうだな」
言われたとおりに汗を拭い、再び集中し始めるライカーン。
床に座る彼の体の周りに、風が集まってくる。
ゆらゆらと揺れる金色の髪を見つめていると、ふわり、と彼の体がほんの少し床から浮いた。
途端に体勢を崩して、尻もちをつく彼。
「く……っ、またダメか」
「焦ってはダメよ。この短期間でそれだけ魔法を使えるようになるなんて、凄いことなのよ」
彼の焦燥感はわかる。けれど、月の神に誑し込まれた時の神と対話するためには、攻撃と防御、どちらの魔法も完璧に扱えるようにさせておきたかった。
正気でない神なんて、何をしてくるかわからないのだから。
「さあ、もう一度。自分の中の風を感じて、そよ風に吹かれても飛ぶくらい、己の肉体は軽いと言い聞かせて」
集中している彼から少し離れる。
今まで一度も魔法を使ったことがなかったなんて、信じられないくらいの成長だわ。
これなら、もうすぐ、ここを出て行けるかしら。
………。
別れが来ることなんて、わかっていたことよ。
ちょっと、ここしばらく、楽しい時間を過ごしたせいね。
どうせまた、私は一人になるのよ。
ああ、こんな気持ちになるのなら、彼と出会わなければよかったのかしら。
いいえ、違うわね。
素敵な時間を過ごさせてもらっているわ。
彼には彼の目的があるのだから、我儘で引き止めてはいけないわ。




