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ライカーンの瞳が、私を捕まえて離さない。
どうして、こんなに揺さぶられるのかしら。
感情なんて、私には不要なものだったはずなのに。
「ライカーンは、太陽を再び昇らせるために、ここへ来たのでしょう?私の解放なんて、考えなくていいのよ」
彼には、彼の目的を果たしてほしかった。
こんな、世界から忘れ去られたような私のことなど、気にしてほしくないわ。
「俺は確かに、俺の愛する祖国を守りたい。だが、貴方のことを放っておくなんて、できない」
「……どうして……?」
「貴方は……突然塔に押し入った俺に、親身になって神話の続きを語ってくれた。魔法も教えてくれた。
食事が必要な俺が狩りに出る為に、塔の結界とやらを、倒れてまで開けてくださった……」
「……」
寝台の上に投げ出していた私の手に、彼の大きな手が重ねられた。
「……っ」
「俺は、貴方に何ひとつ、恩を返せていないのだ。苦しんでいるのなら、それを俺に教えてほしい。無力な俺では何の力にもなれないかもしれないが、それでも……」
言葉を止めたライカーンが、橙色の瞳で私を見つめる。
「貴方を、助けたい」
涙が、流れた。
眠る必要はないと言って起き上がろうとする私を、ライカーンが寝台に横たわらせたままにする。
もう大丈夫だと思うのだけど、心配性なのかしら、この王さまは。
「ねぇ、ライカーン。私、お茶が飲みたいわ。淹れてくるから、起き上がってもいいでしょう?」
「それなら俺が淹れてくる。だから、貴方はもう少し、休んでくれ」
また眉間に皺が寄っているわ。
「お茶なんて、淹れたことあるの?」
「……ない。だが、国では侍女たちが淹れているところを見ていたし、ここでも、貴方が淹れてくれるのをちゃんと見ていた」
むっすりとした顔を隠さずに、彼は立ち上がった。
「貴方がしっかり回復したと俺が確信できるまで、頼むから休んでいてくれ」
そして、ライカーンは階下へ降りていった。
ふう、と息を吐き出す。
誰かの気配を感じながら休むなんて、久しぶりの感覚だわ。
何があんなに、心配なのかしらね。
私は、この塔で時を止めた魔女なのに。
人であった頃には、あんな風に誰かに心配してもらっていたのかしら。
……人であった頃?私、が……?
浮かんできた考えに目を見開く。
私、人間だったのかしら……。
それなら、今ここで、魔女として過ごしているのは、何故?
いいえ、わかっているわ。
私の魔力を吸い上げて、塔を維持するためよ。
でも、誰のために……?
何かを思い出そうとすると、ズキリと頭の奥が痛んだ。
あぁ、邪魔しているのね……。
余計なことを考えるな、と言われているみたい。
忌々しいわ……。




