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時果ての魔女  作者: 紫月 京
1章 囚われの魔女と、異国よりの来訪者

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1−19


ライカーンの瞳が、私を捕まえて離さない。

どうして、こんなに揺さぶられるのかしら。

感情なんて、私には不要なものだったはずなのに。

「ライカーンは、太陽を再び昇らせるために、ここへ来たのでしょう?私の解放なんて、考えなくていいのよ」

彼には、彼の目的を果たしてほしかった。

こんな、世界から忘れ去られたような私のことなど、気にしてほしくないわ。

「俺は確かに、俺の愛する祖国を守りたい。だが、貴方のことを放っておくなんて、できない」

「……どうして……?」

「貴方は……突然塔に押し入った俺に、親身になって神話の続きを語ってくれた。魔法も教えてくれた。

 食事が必要な俺が狩りに出る為に、塔の結界とやらを、倒れてまで開けてくださった……」

「……」

寝台の上に投げ出していた私の手に、彼の大きな手が重ねられた。

「……っ」

「俺は、貴方に何ひとつ、恩を返せていないのだ。苦しんでいるのなら、それを俺に教えてほしい。無力な俺では何の力にもなれないかもしれないが、それでも……」

言葉を止めたライカーンが、橙色の瞳で私を見つめる。

「貴方を、助けたい」

涙が、流れた。



眠る必要はないと言って起き上がろうとする私を、ライカーンが寝台に横たわらせたままにする。

もう大丈夫だと思うのだけど、心配性なのかしら、この王さまは。

「ねぇ、ライカーン。私、お茶が飲みたいわ。淹れてくるから、起き上がってもいいでしょう?」

「それなら俺が淹れてくる。だから、貴方はもう少し、休んでくれ」

また眉間に皺が寄っているわ。

「お茶なんて、淹れたことあるの?」

「……ない。だが、国では侍女たちが淹れているところを見ていたし、ここでも、貴方が淹れてくれるのをちゃんと見ていた」

むっすりとした顔を隠さずに、彼は立ち上がった。

「貴方がしっかり回復したと俺が確信できるまで、頼むから休んでいてくれ」

そして、ライカーンは階下へ降りていった。


ふう、と息を吐き出す。

誰かの気配を感じながら休むなんて、久しぶりの感覚だわ。

何があんなに、心配なのかしらね。

私は、この塔で時を止めた魔女なのに。

人であった頃には、あんな風に誰かに心配してもらっていたのかしら。

……人であった頃?私、が……?

浮かんできた考えに目を見開く。

私、人間だったのかしら……。

それなら、今ここで、魔女として過ごしているのは、何故?

いいえ、わかっているわ。

私の魔力を吸い上げて、塔を維持するためよ。

でも、誰のために……?

何かを思い出そうとすると、ズキリと頭の奥が痛んだ。

あぁ、邪魔しているのね……。

余計なことを考えるな、と言われているみたい。

忌々しいわ……。



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