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時果ての魔女  作者: 紫月 京
1章 囚われの魔女と、異国よりの来訪者

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2/9

1−1


この世界に太陽が昇らなくなってから、三百年の時が流れていた。

ここは、エグラール大陸最北端の岬。

天にも届きそうなこの塔の中で、私はただ、無為に時を過ごしている。


確か今日は、大陸南に位置する炎の国で、年若い新王の戴冠式が行われているはず。

国土の三分の一が砂漠化している炎の国では、二か月前に先王の喪が明けたばかり。

十八歳という若さで、国王として即位することになった青年の名は、ライカーン王太子。

いえ、もう王太子ではなく国王陛下ね。

顎に人差し指を当て、少し思案する。

「……あの国の本は、どこにあったかしら……」

誰が聞いているわけでもない独り言は、高い天井へと吸い込まれていった。

すっ、と裸足の足を踏み出す。

透明度の高いガラスの床の冷たさが、足の裏から伝わってきた。


音を立てずに塔の中を移動し、目的の本棚を探し出す。

「……これ、ね」

真っ赤な背表紙の、分厚い本を取り出した。

炎の国についての伝承や、王族と民の暮らしについて、この本にはすべてが書かれている。

パラリ、と頁をめくってみた。

「ライカーン王太子……いえ国王、は十八歳。淡い金色の髪と橙色の瞳を持つ、美しい青年、と……」

興味をなくして本を閉じた。


この無時域(むじいき)の書庫には、世界中から様々な知識が集まってくる。

塔の魔力に引き寄せられ、書庫の中で本という形を取って漂っているのだ。

手放した赤い背表紙の本は、しばらくフワフワと空間を彷徨い、棚へと戻っていった。

「今日は、何の本を読もうかしら……」

呟きながら、私はガラス窓の外へと目をやる。

太陽の昇らない、永遠の夜。

世界のあちこちで、研究者たちが調べているようだけど、成果は上がっていなかった。

ふふっ、と笑い、その場で一回転してみた。

私の体の動きに合わせてふんわりと揺れる丈の長い腰布(スカート)は、お気に入りだった。

薄黄色の絹に、白い小花の飾りが散りばめられていて、動くたびに揺れるのが、見ていて楽しい。

誰かに贈られたのだったか、自分で作ったのだったか、もうよく覚えていない。


太陽が何故昇らないのか?

その答えを求めて右往左往している人々を、ここから眺めているのは嫌いではなかった。

ここにいる私には、何もできない。ただ、見ているだけ……。

本棚と本棚の間を飛び跳ねるように移動しながら、私は考える。

誰が、一番最初にこの塔までたどり着くかしらね?

答えを見つけて、ここまで来られたなら、何かご褒美でもあげるべきかしら…?

誰も来なければ、それでもいいわ。

私はこの塔で、書庫の知識を守っていくだけだもの。

あぁ、でも、久しぶりに誰かとお話してみたい気分だわ。

けれど、私のほうから手を出すことは禁じられているし……。

ちょっと手がかりを与えてあげるくらい、いいのではないかしら。


そう考えた途端、心臓をギュッと掴まれたような痛みが襲ってきた。

その場に蹲る。

「……っ、わかっているわよ…何もしないわ」

大きく息を吐いて、私は目を閉じた。



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