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この世界に太陽が昇らなくなってから、三百年の時が流れていた。
ここは、エグラール大陸最北端の岬。
天にも届きそうなこの塔の中で、私はただ、無為に時を過ごしている。
確か今日は、大陸南に位置する炎の国で、年若い新王の戴冠式が行われているはず。
国土の三分の一が砂漠化している炎の国では、二か月前に先王の喪が明けたばかり。
十八歳という若さで、国王として即位することになった青年の名は、ライカーン王太子。
いえ、もう王太子ではなく国王陛下ね。
顎に人差し指を当て、少し思案する。
「……あの国の本は、どこにあったかしら……」
誰が聞いているわけでもない独り言は、高い天井へと吸い込まれていった。
すっ、と裸足の足を踏み出す。
透明度の高いガラスの床の冷たさが、足の裏から伝わってきた。
音を立てずに塔の中を移動し、目的の本棚を探し出す。
「……これ、ね」
真っ赤な背表紙の、分厚い本を取り出した。
炎の国についての伝承や、王族と民の暮らしについて、この本にはすべてが書かれている。
パラリ、と頁をめくってみた。
「ライカーン王太子……いえ国王、は十八歳。淡い金色の髪と橙色の瞳を持つ、美しい青年、と……」
興味をなくして本を閉じた。
この無時域の書庫には、世界中から様々な知識が集まってくる。
塔の魔力に引き寄せられ、書庫の中で本という形を取って漂っているのだ。
手放した赤い背表紙の本は、しばらくフワフワと空間を彷徨い、棚へと戻っていった。
「今日は、何の本を読もうかしら……」
呟きながら、私はガラス窓の外へと目をやる。
太陽の昇らない、永遠の夜。
世界のあちこちで、研究者たちが調べているようだけど、成果は上がっていなかった。
ふふっ、と笑い、その場で一回転してみた。
私の体の動きに合わせてふんわりと揺れる丈の長い腰布は、お気に入りだった。
薄黄色の絹に、白い小花の飾りが散りばめられていて、動くたびに揺れるのが、見ていて楽しい。
誰かに贈られたのだったか、自分で作ったのだったか、もうよく覚えていない。
太陽が何故昇らないのか?
その答えを求めて右往左往している人々を、ここから眺めているのは嫌いではなかった。
ここにいる私には、何もできない。ただ、見ているだけ……。
本棚と本棚の間を飛び跳ねるように移動しながら、私は考える。
誰が、一番最初にこの塔までたどり着くかしらね?
答えを見つけて、ここまで来られたなら、何かご褒美でもあげるべきかしら…?
誰も来なければ、それでもいいわ。
私はこの塔で、書庫の知識を守っていくだけだもの。
あぁ、でも、久しぶりに誰かとお話してみたい気分だわ。
けれど、私のほうから手を出すことは禁じられているし……。
ちょっと手がかりを与えてあげるくらい、いいのではないかしら。
そう考えた途端、心臓をギュッと掴まれたような痛みが襲ってきた。
その場に蹲る。
「……っ、わかっているわよ…何もしないわ」
大きく息を吐いて、私は目を閉じた。




