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時果ての魔女  作者: 紫月 京
1章 囚われの魔女と、異国よりの来訪者

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1−18


沈黙が流れる。

何も言ってくれないライカーンは、今、何を思っているのかしら。

そうっと、目を開けてみた。

橙色がこちらを見ていた。

「……っ」

思わず息を呑んだ。

どうして、そんなに真っ直ぐに見つめてくるのよ。

「では、一つだけ、聞かせてほしい」

絞り出すような声に、首を傾げる。

「俺は昨日、表の入口から塔に入った。あの時は、貴方は倒れたりしなかった。何故だ?」

ああ、そうね。体当たりして扉から入ってきたのよね。

吹雪とともに内部に入ってきた彼の姿を思い出して、自然な笑みが浮かぶ。

目を見張るライカーンに、少し考えた後で答える。

「表の入口は、唯一の扉。貴方が体当たりした時に、歯車が外れたみたいなのよ」

「歯車?」

「だから、結界に影響なく入ってこられた。けど、今日は隙間を縫うように結界に穴を開けて貴方を外に出した。その穴を埋める為の魔力を、塔が私から吸い上げたの」

奥歯を噛みしめるような表情を浮かべるライカーン。

どうしたのかしら……。

「……では、貴方が倒れたのは俺のせいということか」

「違うわっ」

慌てて、身を起こす。

途端、眩暈が酷くなった気がして寝台に倒れ込む。

「クララどのっ!」

「……ごめんなさい、ちょっとふらついて……」

ふう、と息を吐いて、彼の橙色を見つめる。

「この塔では、貴方は満足に食事もできない。狩りに出るのは仕方のないことだった」

「……」

「けれど、何度も表の入口は開けられない。昨日のように上手く歯車が外れるかどうかも、わからない。不審な動きを繰り返せば、気づかれるかもしれない」

ああ、話している内に嫌なことを思い出してきそうだわ。

「貴方が出ていく時と入ってくる時、この二回だけだもの。ここまで魔力を持っていかれるとは思ってなかった。私の見立てが甘かっただけの話よ」

つまり、ライカーン一人を外界と出入りさせるには、それだけ結界が大きく歪むということね。

彼の潜在魔力は、思っているより大きいのかもしれない。


再びの静寂に、また目を閉じた。

眠る必要のない私は、こうして横になっているだけで回復する。

だから、そんなに心配することはないのよ、王さま。

「貴方を……この塔から解放する方法は、あるのだろうか」

彼の言葉に驚いて目を開ける。

「解放……?」

「貴方を閉じ込めている相手が誰なのかは、まだ教えてもらえないか?」

「私を閉じ込めている相手……」

「それがわかれば、交渉するなり戦うなりして、貴方をこの塔から自由にできるのではないか、と」

恐ろしいことを考えるわね。

……?恐ろしいこと……?

「貴方は、自分のことを上手く思い出せないと言っていた。それは、閉じ込められていることと関係があるのだろうか。この、時が止まった塔の中で、貴方は記憶も封じられているのでは?」

呟かれた一言は、私の胸の中心に、深く突き刺さるようだった。



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