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沈黙が流れる。
何も言ってくれないライカーンは、今、何を思っているのかしら。
そうっと、目を開けてみた。
橙色がこちらを見ていた。
「……っ」
思わず息を呑んだ。
どうして、そんなに真っ直ぐに見つめてくるのよ。
「では、一つだけ、聞かせてほしい」
絞り出すような声に、首を傾げる。
「俺は昨日、表の入口から塔に入った。あの時は、貴方は倒れたりしなかった。何故だ?」
ああ、そうね。体当たりして扉から入ってきたのよね。
吹雪とともに内部に入ってきた彼の姿を思い出して、自然な笑みが浮かぶ。
目を見張るライカーンに、少し考えた後で答える。
「表の入口は、唯一の扉。貴方が体当たりした時に、歯車が外れたみたいなのよ」
「歯車?」
「だから、結界に影響なく入ってこられた。けど、今日は隙間を縫うように結界に穴を開けて貴方を外に出した。その穴を埋める為の魔力を、塔が私から吸い上げたの」
奥歯を噛みしめるような表情を浮かべるライカーン。
どうしたのかしら……。
「……では、貴方が倒れたのは俺のせいということか」
「違うわっ」
慌てて、身を起こす。
途端、眩暈が酷くなった気がして寝台に倒れ込む。
「クララどのっ!」
「……ごめんなさい、ちょっとふらついて……」
ふう、と息を吐いて、彼の橙色を見つめる。
「この塔では、貴方は満足に食事もできない。狩りに出るのは仕方のないことだった」
「……」
「けれど、何度も表の入口は開けられない。昨日のように上手く歯車が外れるかどうかも、わからない。不審な動きを繰り返せば、気づかれるかもしれない」
ああ、話している内に嫌なことを思い出してきそうだわ。
「貴方が出ていく時と入ってくる時、この二回だけだもの。ここまで魔力を持っていかれるとは思ってなかった。私の見立てが甘かっただけの話よ」
つまり、ライカーン一人を外界と出入りさせるには、それだけ結界が大きく歪むということね。
彼の潜在魔力は、思っているより大きいのかもしれない。
再びの静寂に、また目を閉じた。
眠る必要のない私は、こうして横になっているだけで回復する。
だから、そんなに心配することはないのよ、王さま。
「貴方を……この塔から解放する方法は、あるのだろうか」
彼の言葉に驚いて目を開ける。
「解放……?」
「貴方を閉じ込めている相手が誰なのかは、まだ教えてもらえないか?」
「私を閉じ込めている相手……」
「それがわかれば、交渉するなり戦うなりして、貴方をこの塔から自由にできるのではないか、と」
恐ろしいことを考えるわね。
……?恐ろしいこと……?
「貴方は、自分のことを上手く思い出せないと言っていた。それは、閉じ込められていることと関係があるのだろうか。この、時が止まった塔の中で、貴方は記憶も封じられているのでは?」
呟かれた一言は、私の胸の中心に、深く突き刺さるようだった。




