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じっとこちらを見つめるライカーンは、何かを問いたげな顔をしていた。
どうしよう。私が余計なことを口走ったからよね。
どうすれば、また笑ってくれるかしら。
口元に笑みを浮かべてみた。
そうよ、先に笑ったら、笑顔を見せてくれるかも……。
「何故、そんなに悲しそうに笑うんだ?」
上手くいかなかった。
どうして誤魔化されてくれないのかしら。
「……俺は、貴方は自分の意思でこの塔にいるのだと思っていた」
「えっ?」
「俺がここに来たのは、国の宰相から聞かされたからだ。大陸最北端の岬に建つ、高い塔には時果ての魔女が棲んでいる、と」
私の額に手を乗せたまま、絞り出すような声でライカーンが話す。
「この世のあらゆる知識をその身に宿している、時の止まった魔女がいる、と。
その話を聞いた時には、自分の意思で自分の時を止めた魔女なんだと思っていた」
私が、私の意思で……?
そんな馬鹿な。そんなはずない。
私はこの塔で、捧げ物の魔力を吸い取られ続けて……誰に捧げるの……?
『君はこの塔で、僕に捧げるための魔力を蓄え続けてね』
あぁ、そうだ。
だから、私はここにいるのだ。
「……クララどの?」
怪訝そうな声に我に返る。
視線を巡らせると、ギュッと眉を寄せたライカーン。
「……ライカーン……」
「貴方は、何故、この塔にいる?」
「私は……何故……」
考えることを頭が拒否している。
思い出させないで……。
いやいや、と首を振る私に何を思ったのか、ライカーンがため息を吐いた。
「ライ、カーン……?」
違う。こんな震える声など、私のものではない。
こんなに、弱い……。
「貴方が自身の意思でこの塔で時を止めているのなら、それで構わなかった。だが、貴方は魔力を吸われ、監視されていると言う。この塔に、囚われているということではないのか?」
囚われている……?
「誰が、貴方をこんなところに閉じ込めているんだ?」
責められているわけではないのに、彼の声はまるで詰問のようだった。
私を閉じ込めている誰かに向けた、怒りの感情。
ライカーンが握る手から、彼の怒りが流れ込んでくるようで身が竦んだ。
「……どうして、怒っているのかしら……」
私の言葉に、彼が目を見開いた。
「いや、貴方に怒っているわけではない。貴方を囚われの魔女にしている誰かに、怒りが収まらないだけだ」
「囚われの魔女……」
私は、囚われているの?誰に……?
いいえ、よく思い出して。
私は何故、この塔にいるのか。
いえ、ダメよ。思い出してはダメ。
ぐるぐると、考えが頭の中で回っている。
握られている手を、そっとライカーンから取り戻した。
「クララどの?」
「……思い出させないで、お願い……」
彼の橙色の瞳から逃れるように、目を閉じた。




