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時果ての魔女  作者: 紫月 京
1章 囚われの魔女と、異国よりの来訪者

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1−16


ひんやりとした床に頬ずりする。

この肉体は温度など感じないけれど、眩暈が治まってきたような気がする。

ライカーンは、無事に狩りを終えたかしら。

この辺りに棲む獣は、人間を見慣れていないからそれほど危険はないと思うのだけど。

カタリ、と音がした気がして視線を向けると、本棚の隙間からがっしりとした腕が伸びてきていた。

しばらく何かを探すような仕草を見せた後、ぐにゃりと空間が歪んだ。

あぁ、また魔力を吸い上げられちゃうなぁ……。

でも、彼が無事に入ってこられるなら、いいか。

カツン、と軍靴の足音を立てて、ライカーンが内部に入ってきた。

途端に結界の修復が始まる。

床に横たわる私に気づいたのか、慌てた様子で王さまが駆け寄ってきた。

「クララどのっ」

「……お帰りなさい」

「どうされた!?」

雪の空気を纏った南の王が、私の傍に膝をつく。

私に触れようとして、一度手を引っ込めた彼は、貸してあげた外套を脱いで私の体に掛けた。

そっと、まるで壊れ物のように優しく、抱き上げてくれた。

「……怪我は?」

「俺は何ともない。貴方こそ、どうなされた?」

ライカーンの声が震えているような気がするのは、極寒の外から帰ってきたから?

それとも、まさか、私を心配してくれているの?

何だか心地いいわ。

「貴方の寝台に運んでもいいだろうか?」

尋ねながら、既に歩き出している。

ふふっ、運んでもらうのって楽だわ。


私の体を揺らさないように慎重に、でも急ぎ足で階段を上がり、最上階の私の寝台へ横にならせてくれた。

「ありがとう、ライカーン。重たくなかったかしら?」

「羽のように軽かった」

革の手袋を外した手の平が、私の額に当てられる。

ひんやりしている気がして、気持ちいい。

彼の手の感触を楽しむように、目を閉じてみた。

「体調が悪かったのなら、狩りになど出なかったのに」

悔やむような声に目を開ける。

寝台の傍に膝をついて、橙色がこちらを見ていた。

「いいえ、これは結界の修復のせいだから、気にしないで」

「結界……の修復……?」

「それより、朝食は?」

眉間に皺を寄せる彼に聞いてみる。

「狩った兎の肉を、焼いて食べてきた。貴方が教えてくれた火魔法で、肉を焼く火も熾せた」

「よかったわ」

皺が寄ったままの彼の眉間に、手を伸ばしてみた。

「また、ここギュッてなってる」

その褐色の肌に触れそうになった瞬間、ライカーンが私の手を握りしめた。

大きな手が、体温を伝えてくれるようで、戸惑う。

「どうして、そんな顔をしているのかしら」

「貴方の体調が心配だ」

「少し休めば、回復するわよ。これは、魔力を吸われ過ぎただけだから……」

「吸われた?」

低くなった彼の声に、口を噤む。

余計なことを言ったかしら。



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