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ひんやりとした床に頬ずりする。
この肉体は温度など感じないけれど、眩暈が治まってきたような気がする。
ライカーンは、無事に狩りを終えたかしら。
この辺りに棲む獣は、人間を見慣れていないからそれほど危険はないと思うのだけど。
カタリ、と音がした気がして視線を向けると、本棚の隙間からがっしりとした腕が伸びてきていた。
しばらく何かを探すような仕草を見せた後、ぐにゃりと空間が歪んだ。
あぁ、また魔力を吸い上げられちゃうなぁ……。
でも、彼が無事に入ってこられるなら、いいか。
カツン、と軍靴の足音を立てて、ライカーンが内部に入ってきた。
途端に結界の修復が始まる。
床に横たわる私に気づいたのか、慌てた様子で王さまが駆け寄ってきた。
「クララどのっ」
「……お帰りなさい」
「どうされた!?」
雪の空気を纏った南の王が、私の傍に膝をつく。
私に触れようとして、一度手を引っ込めた彼は、貸してあげた外套を脱いで私の体に掛けた。
そっと、まるで壊れ物のように優しく、抱き上げてくれた。
「……怪我は?」
「俺は何ともない。貴方こそ、どうなされた?」
ライカーンの声が震えているような気がするのは、極寒の外から帰ってきたから?
それとも、まさか、私を心配してくれているの?
何だか心地いいわ。
「貴方の寝台に運んでもいいだろうか?」
尋ねながら、既に歩き出している。
ふふっ、運んでもらうのって楽だわ。
私の体を揺らさないように慎重に、でも急ぎ足で階段を上がり、最上階の私の寝台へ横にならせてくれた。
「ありがとう、ライカーン。重たくなかったかしら?」
「羽のように軽かった」
革の手袋を外した手の平が、私の額に当てられる。
ひんやりしている気がして、気持ちいい。
彼の手の感触を楽しむように、目を閉じてみた。
「体調が悪かったのなら、狩りになど出なかったのに」
悔やむような声に目を開ける。
寝台の傍に膝をついて、橙色がこちらを見ていた。
「いいえ、これは結界の修復のせいだから、気にしないで」
「結界……の修復……?」
「それより、朝食は?」
眉間に皺を寄せる彼に聞いてみる。
「狩った兎の肉を、焼いて食べてきた。貴方が教えてくれた火魔法で、肉を焼く火も熾せた」
「よかったわ」
皺が寄ったままの彼の眉間に、手を伸ばしてみた。
「また、ここギュッてなってる」
その褐色の肌に触れそうになった瞬間、ライカーンが私の手を握りしめた。
大きな手が、体温を伝えてくれるようで、戸惑う。
「どうして、そんな顔をしているのかしら」
「貴方の体調が心配だ」
「少し休めば、回復するわよ。これは、魔力を吸われ過ぎただけだから……」
「吸われた?」
低くなった彼の声に、口を噤む。
余計なことを言ったかしら。




