1−13
塔の窓から、吹雪く外を眺める。
太陽神がこの世に顔を出さなくなってから、朝が来ても薄暗いまま。
月明かりが、一日を支配している。
『君はこの塔で、僕に捧げるための魔力を蓄え続けてね』
……誰に言われたのだったかしら……。
遠い記憶のような、昨日のことのような、頭の中がはっきりしない。
緩く頭を振って、本棚に視線を戻した。
私から吸った魔力で、塔が維持されている。
世界中から知識を集め、魔力で本という形にして、あの神さまは何がしたいのかしら。
……神さま?
首を傾げる私の耳が、小さな物音を拾った。
螺旋階段から、吹き抜けを覗き込む。
炎の国の青年王が、剣を鞘から抜かず素振りをしていた。
朝から頑張るわね。
ふふっと笑いが漏れて、自分で驚く。
昨日から私、笑ってばかりじゃないかしら。
自分の頬に手を当ててみる。
ふ、と鍛錬中のライカーンが上を見上げた。
視線が絡み合う。
この高さからでも、下から見上げる橙色が見えた。
つい、吹き抜けをふわりと舞い降りてしまった。
「!!!」
驚きに目を見開いて、ライカーンが慌てたように両腕を広げた。
あら、あの中に着地していいのかしら。
嬉しくなって、彼の広げた両腕の中に収まる。
ほおっ、と息を吐く彼は、私の肩に手を置いてあちこち確認している。
「おはよう、ライカーン」
「おはよう、クララどの。驚かせないでくれ。怪我はしていないだろうか」
「怪我?ふふっ、私が?」
彼の腕の中から逃れて、その場でくるりと回ってみせた。
「大丈夫よ。貴方は、何をしていたの?鍛錬?」
彼の手に握られた剣に視線を向けると、しっかりと頷いた。
「ああ、ここで貴方に魔法を教わることになったが、素振りは日課でな。体が鈍っては困る」
「素敵ね。体を鍛えるのが好き?」
「好きなのもあるが、必要だ。弱き王では国を守れない」
揺るぎない信念に瞳を燃やしている彼からは、今を必死に生きる力強さが伝わってくる。
泥臭く生きる人間を、私は嫌いではなかった。
剣を腰に差し直して汗を拭いている彼に、尋ねる。
「朝食は、何がいいかしら?と言っても、この塔に大した食料はないのだけれど」
「それなんだが、クララどの。この塔から外に出る許可をいただけるだろうか」
彼の言葉に動きが止まった。
この塔を出る?もう、ここで過ごすのが嫌になったの……?
答えられない私に、彼がさらに続ける。
「雪の中で生きる獣がいるだろう。肉を狩ってきたい」
震えだす腕をさすりながら、彼を振り返る。
「肉……」
「貴方は言った。塔の中は時が止まっている、と。狩りに出る数刻でも、何か影響はあるだろうか?」
ライカーンは、真っ直ぐに私を見ている。
嘘などついていないのがわかって、ほっと息を吐き出した。
「貴方は食事の必要がないと言った。ならば、自分の糧は自分で用意する。何から何まで貴方に甘えるわけにはいかない」
そう、そうよね。ここには碌な食べ物がないのだから、彼が不満に思っても仕方がないわ。
自分に言い聞かせるように頷いて、私は彼の傍に歩み寄った。




