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「今夜は、もう休みましょうか。初めての魔法を使って疲れているでしょう?」
そう言って立ち上がると、ライカーンがこちらを真っ直ぐに見上げてきた。
「……もう少し、訓練したいのだが……」
「焦ってはダメよ。今は平気でも、一気に魔力を使えば動けなくなるかもしれないわ」
黙り込む彼の手を取って、椅子から引っ張り上げる。
「昼寝をさせてもらったから、眠くはない」
「自分ではわかっていなくても、疲労しているのよ。いいから、いらっしゃい」
納得していないような顔の彼の手を引いて、階段を上がる。
昼間に寝かせていた予備の寝台に、そっと促した。
「さぁ、横になって。眠るまで、ここにいてあげるから
……子守唄でも歌う?」
からかうように言ってやると、諦めたように息を吐いて、身につけている襯衣の胸元をくつろげ始めた。
外から入ってきた時に纏っていた赤い外套と黒い軍服は、本棚の傍の上着掛けに吊るしてある。
雪で濡れていた為、乾かしているのよ。
風魔法も使えるのだけど、彼が入ってきた時は塔の扉が開いていたから、魔力が足りなかった。
私の魔力は、塔に吸われ続けている。
いえ、その話は今はいいわ。
彼を眠らせないと。
胸元をくつろげて身を楽にしたらしいライカーンが、寝台の上に体を乗せる。
白い襯衣の上から、鍛えている肉体が透けていた。
魔力を教えていた時にも上着を脱いでいたのだけど、あの時は彼に魔力を感じさせるのに夢中で気づかなかったわ。
「何を歌いましょうか」
「いや……歌はいい……」
「そう?よく眠れると思うのだけど……」
首を横に振った若き王は、大人しく目を閉じた。
綺麗な橙が見えなくなり、少し寂しい。
寂しい……?どうして……?
「おやすみなさい、ライカーン」
「……おやすみ、クララどの」
静かに答える彼の顔を見つめる。
まつ毛が長いわ。髪と同じ淡い金色のまつ毛。
南の国の人間の特徴を示す褐色の肌に、がっしりとした体躯。
話している時は精悍な印象だったのだけど、意志の強い瞳が見えなくなると、幼いわね。
じっと観察していると、ライカーンが身動ぎした。
「……クララどの、見られていると、落ち着かない」
「あら。ごめんなさい。では、私は自分の寝台へ行くわね。おやすみなさい」
「……おやすみ」
誰かにおやすみの挨拶をする日が来るなんて。
少し感動しながら、最上階の自分の寝台へと戻った。
私が去った後、青年王が甘く吐息を漏らしていたことになど、少しも気づかなかった。




