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時果ての魔女  作者: 紫月 京
1章 囚われの魔女と、異国よりの来訪者

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1−11


テーブルに並べられた料理に、ライカーンが目を丸くしている。

何かおかしかったかしら。

「食べられそう?」

「あ、あぁ……美味そうだ」

椅子に座り、じっと料理を見つめる青年王。

しばらく迷う素振りを見せたあと、茹でた卵に手を伸ばす。殻を丁寧に剥いていく。

口に運び、ゆっくりと咀嚼している。

向かいに座って、紅茶を一口飲んだ。

彼の反応が気になるけど、何も言ってくれない。

「……美味い」

ポツリ、と零された一言にほっとした。

「クララどのは、失礼ながら料理は不慣れかと思っていたが……」

「不慣れというか、普段は作らないわ。私に食事の必要はないから」

「では、これは俺のために……?」

確認するライカーンに頷く。

「しっかり食べて、しっかり眠って……。人間には必要でしょう?」

「……クララどのに、食事の必要がないというのは?」

遠慮がちに、ライカーンが聞いてきた。

「私は……魔女だもの。水も食事もなくたって、生きていける。コレは、嗜好品だから」

手にした茶器(カップ)の中で揺れる紅茶に目を落とす。


「さっき、初めての魔法を使ってみて、どうだった?」

話題をそらすように、そう聞いてみた。

私のことなど、話したくない。私自身、もうよく覚えていないのだから。

意図に気づいてくれたのか、目の前の青年王が嬉しそうに笑った。

何それ、可愛い。

「俺の中にも、魔力があるのが感じられた。まるで御伽噺のようだ」

「火魔法は、制御が難しいのだけど、貴方は炎の国の王さまだからかしらね。上手に使えているように見えたわ。

 魔法を使った後、気分が悪くなったり、吐きそうになったりしなかったかしら?」

首を横に振り、食事の隣に用意しておいた水を飲むライカーン。

「いや、どちらかと言えばすっきりした気分だ。蓋をされていた体内が、解放されたような……ああ、上手く言えないな」

「無理に言葉にしなくてもいいわよ。魔法に理論はあるけれど、感覚的なものも大きいのだから」

ふふっと笑って、私は紅茶を飲み干した。


水魔法を使って食器を洗い、棚にしまう。

ライカーンを振り返ると、じっと自分の指先を見つめていた。

眉間に皺が寄っている。何を考えているのかしら。

「どうしたの?」

「……もう一度、火を灯してみようと思ったのだが、貴方が点けてくれている火のほうが明るいな」

額に汗が浮かんでいる。どれだけ集中していたのかしら。

「この明るさの中で俺が炎を灯しても、小さすぎて見えないかもしれないな」

「なら、私の火を一度消しましょうか?せっかく使えたのだもの。感覚を掴んだままにしておくといいわ」

そして、彼の返事を待たずに指を振った。

部屋を照らしていた赤々とした火が消える。

訪れた暗闇に、静寂が流れた。

「さぁ、点けてみて」

「ああ……」

暗い中でも、彼が集中しているのがわかる。

邪魔をしないように、静かに待つ。

ポッ、と橙色の炎が灯った。

彼の指先で、小さく光っている。

「……できた……」

「上手ね、ライカーン。どんな感覚?」

「……臍の下が、熱い」

ソワソワと視線を彷徨わせている。

「そう、それが貴方の魔力。その感覚を、忘れないで」

薄明かりの中で顔を上げた彼が、幼子のような無邪気な笑顔を浮かべていた。



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