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テーブルに並べられた料理に、ライカーンが目を丸くしている。
何かおかしかったかしら。
「食べられそう?」
「あ、あぁ……美味そうだ」
椅子に座り、じっと料理を見つめる青年王。
しばらく迷う素振りを見せたあと、茹でた卵に手を伸ばす。殻を丁寧に剥いていく。
口に運び、ゆっくりと咀嚼している。
向かいに座って、紅茶を一口飲んだ。
彼の反応が気になるけど、何も言ってくれない。
「……美味い」
ポツリ、と零された一言にほっとした。
「クララどのは、失礼ながら料理は不慣れかと思っていたが……」
「不慣れというか、普段は作らないわ。私に食事の必要はないから」
「では、これは俺のために……?」
確認するライカーンに頷く。
「しっかり食べて、しっかり眠って……。人間には必要でしょう?」
「……クララどのに、食事の必要がないというのは?」
遠慮がちに、ライカーンが聞いてきた。
「私は……魔女だもの。水も食事もなくたって、生きていける。コレは、嗜好品だから」
手にした茶器の中で揺れる紅茶に目を落とす。
「さっき、初めての魔法を使ってみて、どうだった?」
話題をそらすように、そう聞いてみた。
私のことなど、話したくない。私自身、もうよく覚えていないのだから。
意図に気づいてくれたのか、目の前の青年王が嬉しそうに笑った。
何それ、可愛い。
「俺の中にも、魔力があるのが感じられた。まるで御伽噺のようだ」
「火魔法は、制御が難しいのだけど、貴方は炎の国の王さまだからかしらね。上手に使えているように見えたわ。
魔法を使った後、気分が悪くなったり、吐きそうになったりしなかったかしら?」
首を横に振り、食事の隣に用意しておいた水を飲むライカーン。
「いや、どちらかと言えばすっきりした気分だ。蓋をされていた体内が、解放されたような……ああ、上手く言えないな」
「無理に言葉にしなくてもいいわよ。魔法に理論はあるけれど、感覚的なものも大きいのだから」
ふふっと笑って、私は紅茶を飲み干した。
水魔法を使って食器を洗い、棚にしまう。
ライカーンを振り返ると、じっと自分の指先を見つめていた。
眉間に皺が寄っている。何を考えているのかしら。
「どうしたの?」
「……もう一度、火を灯してみようと思ったのだが、貴方が点けてくれている火のほうが明るいな」
額に汗が浮かんでいる。どれだけ集中していたのかしら。
「この明るさの中で俺が炎を灯しても、小さすぎて見えないかもしれないな」
「なら、私の火を一度消しましょうか?せっかく使えたのだもの。感覚を掴んだままにしておくといいわ」
そして、彼の返事を待たずに指を振った。
部屋を照らしていた赤々とした火が消える。
訪れた暗闇に、静寂が流れた。
「さぁ、点けてみて」
「ああ……」
暗い中でも、彼が集中しているのがわかる。
邪魔をしないように、静かに待つ。
ポッ、と橙色の炎が灯った。
彼の指先で、小さく光っている。
「……できた……」
「上手ね、ライカーン。どんな感覚?」
「……臍の下が、熱い」
ソワソワと視線を彷徨わせている。
「そう、それが貴方の魔力。その感覚を、忘れないで」
薄明かりの中で顔を上げた彼が、幼子のような無邪気な笑顔を浮かべていた。




