5−12
集められた百人以上の兵士たちが、動揺にざわついている。
そうだよな。突然目の前で人が一人消えれば、驚くよな。
「……力技だな」
俺の呟きを聞いたのは、時の神だけだったらしい。にやりと笑ってみせた神に、嘆息する。
「理詰めで説いても、この場にいる者どもを納得させるのは難しかろう?時を無駄にするだけじゃ」
それはそうなんだが……。
玉座から立ち上がり、兵士たちを見渡す。
「こちらの方は、先の旅で俺に大きな力を貸してくださった方だ。俺が、生きて戻れたのはこの方のお陰である。失われて久しい魔法を扱うことのできる、尊重すべきお方である」
どう説明するか悩んだすえに、俺の口から出たのはそんな言葉だった。
苦心する俺を面白そうに見た後、時の神が引き継ぐ。
「お主らは、勇敢なる王の騎士であろうが、魔力も魔法も持たぬであろう。王の道行に同行するは、困難じゃ。宰相どのが戻ったならば、今後のことを決めていただこう」
それは丸投げと言うのでは……。
王の間に汗だくの宰相が駆け込んできた。
顔が青白いのを通り越して、土気色をしているな。
「へ、陛下っ!い、今のは……っ!」
肩で息をしながら、兵士たちの間をすり抜けて玉座に迫ってくる。顔が怖い。
「今のは、この方の魔法のほんの一部だ。だが、宰相が体験したように、底知れない力をお持ちだ。今の魔法で、俺を北まで飛ばしてくださる」
俺の傍まで駆けつけた宰相は、震えながらも時の神の足元に跪いた。
王以外の前で膝をつかないはずの宰相の姿に、広間が騒然とする。
「お、恐れながら……発言をお許しいただけますかな」
「よかろう」
鷹揚に頷く時の神の顔を見ないように、目を伏せたままで宰相が続ける。
「貴方さまの御力は、理解致しました。ですがそれでも、我らが王をお一人で行かせるわけには参りませぬ」
兵士たちの中には、宰相の言葉に頷いている者もチラホラいるな。
何が起きたかわからないという顔をしている者、初めて見る魔法に驚愕している者、宰相と時の神を交互に見やる者。
当然の反応か。
「宰相どのの懸念はわかる。儂も、百人は無理でも何人かの同行者は共に飛ばしてやれる。そのつもりで、そうじゃな……酒に強い者を選ぶがよい」
「さけ……」
ぽかんとする宰相の顔がちょっと面白いな。滅多に見ない表情だぞ。
「ここから目的地までは、お主を庭に飛ばすよりずっと距離がある。体が耐えきれず、酩酊状態に陥る者もおろう。つまり、酔いに強い者を、王に同行させればよい」
呆気にとられたような宰相を放って、俺は兵士たちに声を掛けた。
「せっかく集まってくれたのに、すまんな。そういうわけで、此度選ばれなかった者は俺の留守中、この国をしっかり守ってほしい。それも、大事な役目だ」
俺の言葉に顔を見合わせている兵士たちをそのままに、時の神を促して王の間を出た。
これ以上この場にいたら、余計なことを口走りそうだ。
後の説得は、宰相に任せよう。……俺も丸投げだな。苦笑が漏れた。




