5−11
式典の時にしか使わない王の間に、宰相が選んだ兵士たちが集まっていた。
先導する侍従、宰相、俺、もう一人の侍従、何故か時の神という順番で広間に足を踏み入れた。
俺の姿を見た瞬間、兵士たちが一斉に膝をついた。
皆、揃いの黒い軍服に身を包んでいる。胸に、炎の国の紋章が刺繍されている。
「顔を上げよ」
宰相の言葉に、顔を上げた兵士たちの視線が俺を素通りし、時の神に集まる。何故この場に部外者がいるのか、といった顔だな。
「此度、我らが王は、世界に太陽を復活させるため、大陸最北へと向かわれる。其方たちは、その護衛として選ばれた。皆、命を賭してお役目を果たすがよい」
重々しい宰相の言葉に皆一斉に頭を下げるが、俺はそれどころではなかった。
「陛下、皆にお言葉を」
「いや、多い!」
思わず素で答えてしまった。
王の間に集められていたのは、百人はいようかと思えるほどの兵士たちだった。
何故これほどの大所帯にした!?
頭を抱えたくなるのを堪え、宰相を睨みつける。
「少数精鋭で行く。こんな大勢引き連れて行軍などできん!目的地にたどり着くまでどれほど時がかかることか」
俺の抗議に宰相がはて、と首を傾げる。
この男は、仕事ができるはずなのに時々こういうところがある。俺を生まれた時から見ているせいか、厳しいくせに過保護なんだ。
俺も、すでに一国を背負って生きる国王だぞ。甘やかそうとするな。
「しかし、御身をお護りするには、これでも少ない方ですぞ?」
「物見遊山ではないのだぞ!?」
「無論わかっておりますが」
何を言っているのか、という顔をするんじゃない!
「……よいかの」
何とも言えない空気を崩したのは、それまで黙っていた時の神だった。
「あー……宰相どのの仰せはもっともじゃが。先ほど王と話し合い、北の地へは我が魔法にて飛ばすこととなった」
話し合いは、していないんだが。
もういい。この際少し、この場を任せてみるか。
脱力を兵士たちに悟られないように、玉座にどっしりと座ってみせた。
「魔法で、飛ばす……それは、一体どういう意味で?」
宰相の目つきが鋭くなる。そうだよな。魔法なんて、御伽噺の中のことだよな。
兵士たちからも、動揺した空気が伝わってくる。すまん、この神は場の空気など読まないんだ。
「言葉通りの意味じゃよ。其方たちの王は、儂がしっかり目的地へ送り届けよう。時の猶予がないのは事実じゃしな」
「それは、容認致しかねます。我らが王を、そのような得体の知れぬものにお預けすることはできませぬ」
宰相は相手が神だとわかってはいるが、兵士たちの手前もあるしな。どうするか……。
「では、儂の魔法を見れば納得するかの?」
「は?」
玉座の肘掛けにゆったりと手をついていた俺は、思わず目を丸くした。
神の力を、見せる?大丈夫なのか。
宰相もそう感じたのか、怪訝そうな表情を浮かべていた。
「そうじゃな……例えばお主を、今ここから王が鍛錬を行っていた庭へ飛ばしてやろう」
指を一本立て、時の神が軽く振った。詠唱も、魔力の光もなかった。
次の瞬間、宰相の姿は広間から消えていた。




