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魔力とは、己の体内に巡る血液のようなものであるの。
目を閉じて、意識を鼓動に集中させて魔力が動くのを感じ取る。
これが、ライカーンには難しいようだった。
「……っは、クララどの……もう少し、ゆっくり……っ」
黒い軍服の上着を脱いで襯衣一枚だけになってもらった彼のお腹の下のほう、お臍あたりを軽く押す。
ここに、魔力が集中する核のような器官があるのよ。
その存在を感じられなければ、魔力は扱えない。
そっと、撫であげる。
「……っ、クララ、どの…っ!」
「息を止めない。ゆっくり、呼吸は続けて」
ライカーンの額に浮かぶ汗が、頬を伝って垂れる。
集中力はあるのだけどね……。
もう少し、刺激してみようかしら。
指先に少し力を込め、さらに彼のお臍から下へと手を動かす。
と、グイッと手首を掴まれた。
「……っ!?」
「申し訳、ない……そこから下は、手を伸ばさないでいただけると、助かる……」
「えっ?」
「俺も、男だからな。美しい貴方と二人きりで、これほど体を密着させていては落ち着かない……」
どういう意味かしら。
首を傾げていると、ライカーンが掴んでいた手首を離してくれた。
跡もついていない手首に、彼の熱が残っているようだった。
「しばらく、一人で集中してみる。せっかく教えていただいているのに、申し訳ないが……」
「一人のほうが集中できるのなら、構わないわ。私は食事の支度をしてくるから」
私に食事の必要はないけれど、ライカーンには必要ね。食事も、睡眠も。
程よいところで、訓練を止めなければ。
「納得いくまで、魔力を感じることに集中するといいわ」
そう言って、立ち上がった。
塔の一階に、これまた何故あるのかわからない厨があった。
私に食事は必要ないのに、何のためにあるのかしら。
「えーっと、小麦でパンを焼いて、卵を茹でて……」
調理法が書かれた本を宙に浮かせ、必要な頁を開きながら、ライカーンが持ち込んだ材料をその場に取り出していく。塔までの旅の道中で、仕入れた食料らしいわ。
「あと、味つけ?塩こしょう……あ、茶葉の棚にあったわね」
紅茶や珈琲に入れるために砂糖があるのはわかるけど、塩は何故あるのかしら。
長い間ここに住んでいるはずなのに、どうしてこんなにわからないことだらけなの?
ライカーンがこの塔に来てから、何かおかしい。
記憶の蓋が外れるような、欠片が剥がれるような、気持ち悪い感覚が抜けない。
頭を振って、余計な考えを追い出す。
今は、訓練を頑張っているライカーンのために、私も頑張って料理を作らなきゃ。
私だって、魔女になる前に料理ぐらいしていたかもしれない。
魔女になる前……?
自分で自分の思考が理解できなかった。




