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時果ての魔女  作者: 紫月 京
1章 囚われの魔女と、異国よりの来訪者

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1−9


魔力とは、己の体内に巡る血液のようなものであるの。

目を閉じて、意識を鼓動に集中させて魔力が動くのを感じ取る。

これが、ライカーンには難しいようだった。

「……っは、クララどの……もう少し、ゆっくり……っ」

黒い軍服の上着を脱いで襯衣(シャツ)一枚だけになってもらった彼のお腹の下のほう、お臍あたりを軽く押す。

ここに、魔力が集中する核のような器官があるのよ。

その存在を感じられなければ、魔力は扱えない。

そっと、撫であげる。

「……っ、クララ、どの…っ!」

「息を止めない。ゆっくり、呼吸は続けて」

ライカーンの額に浮かぶ汗が、頬を伝って垂れる。

集中力はあるのだけどね……。

もう少し、刺激してみようかしら。

指先に少し力を込め、さらに彼のお臍から下へと手を動かす。

と、グイッと手首を掴まれた。

「……っ!?」

「申し訳、ない……そこから下は、手を伸ばさないでいただけると、助かる……」

「えっ?」

「俺も、男だからな。美しい貴方と二人きりで、これほど体を密着させていては落ち着かない……」

どういう意味かしら。

首を傾げていると、ライカーンが掴んでいた手首を離してくれた。

跡もついていない手首に、彼の熱が残っているようだった。

「しばらく、一人で集中してみる。せっかく教えていただいているのに、申し訳ないが……」

「一人のほうが集中できるのなら、構わないわ。私は食事の支度をしてくるから」

私に食事の必要はないけれど、ライカーンには必要ね。食事も、睡眠も。

程よいところで、訓練を止めなければ。

「納得いくまで、魔力を感じることに集中するといいわ」

そう言って、立ち上がった。


塔の一階に、これまた何故あるのかわからない(くりや)があった。

私に食事は必要ないのに、何のためにあるのかしら。

「えーっと、小麦でパンを焼いて、卵を茹でて……」

調理法が書かれた本を宙に浮かせ、必要な頁を開きながら、ライカーンが持ち込んだ材料をその場に取り出していく。塔までの旅の道中で、仕入れた食料らしいわ。

「あと、味つけ?塩こしょう……あ、茶葉の棚にあったわね」

紅茶や珈琲に入れるために砂糖があるのはわかるけど、塩は何故あるのかしら。

長い間ここに住んでいるはずなのに、どうしてこんなにわからないことだらけなの?

ライカーンがこの塔に来てから、何かおかしい。

記憶の蓋が外れるような、欠片が剥がれるような、気持ち悪い感覚が抜けない。

頭を振って、余計な考えを追い出す。

今は、訓練を頑張っているライカーンのために、私も頑張って料理を作らなきゃ。

私だって、魔女になる前に料理ぐらいしていたかもしれない。

魔女になる前……?

自分で自分の思考が理解できなかった。



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