1-8:初めてのクエスト達成
カイルくんが木の下に駆け寄る。樹上に向けて両手を広げるが、ベシーちゃんは動かない。いや、正確には前足を出そうとしては、躊躇している感じ。
「参ったね。折角、見つけられたのに」
ベシーちゃん、追い払われた後、木を伝って侵入を試みたんだろうね。
門番さんたちは微妙に気まずそうに様子だ。
「こういう時は……ももちゃん、出番だよ!」
魔法の粘土で、お助けアイテムを作ってもらおう。
「ももちゃん、ベシーちゃんの所に行くには、何を作ったら良いかな?」
ちょっと自分で考えさせるのも、教育だね。
「ぷてやのどん!」
うーん……
「プ、プテラノドンなら確かに行けるけど……あ、ダメ、ダメよ。ももちゃん、作らないで」
ももちゃんが成形を始めたので、慌てて止める。ももちゃん、プテラノドン作るのメッチャ速いから、こっちも必死だ。
「ももちゃん、ここは脚立にしよう」
「こたつ?」
コタツは……猫も好きそうだけど、無事に降りてからの話だね。
けど、そうか。ももちゃん、たぶん脚立を知らないんだよね。
「ええっと……」
私は視界の端にあるタブをテキトーに押してみる。ウェブ検索機能があるハズなんだけど……マニュアル読まずにゲーム始めちゃう派なので、どのタブか分からない。
「あ、あった、あった」
カイルくんが訝しげに見てるし、早くしないと。
音声入力をオンにして、
「脚立、画像」
検索をかける。すぐにAR画面が浮き上がり、脚立の画像が何枚か映し出される。
「あ! なんかみたことある」
「どう? 作れる?」
「うん!」
ももちゃんは早速、粘土をコネコネ。上を向いて画像を確認して両手で形成を始める。
でもこれ、明らかにサイズが足りないよね。ミニ脚立というか、2段くらいのステップしか……
「わあ!」
おっきくなった!?
作り終えたところで、脚立は3メートルくらいのサイズに拡大された。慌てて門番さんたちが、それを支えてくれる。良かった。バランス崩れて、ももちゃんの方に倒れたりしたら、ケガしてたかも。
……あ、そうか。VRゲームだったね、これ。でも怖い思いはさせちゃってたのは間違いない。
「おお、凄いね! これを使えば、枝まで届きそうだ!」
カイルくんが喜び勇んで、脚立を配置する。初めて見るハズだけど、上手く開いて安定させていた。
「俺たちが支えておくぞ」
「お願いします」
門番さんたちが2人がかりで押さえて、脚立は更に安定した。
そのステップを慎重に上って行ったカイルくんが、やがて。
「ベシー!」
「にゃ!」
愛猫と再会した。ベシーちゃんはカイルくんの右腕の中へ。もう離れないとばかりに、服に爪を立ててしがみついている。
「ああ、良かった。ベシー、無事だね。良かった……」
カイルくんも彼女の後頭部に鼻をつけて、体温を交わし合う。
「べしちゃん、かいるくん、あまえんぼ!」
まあ2人とも互いに互いを心配して歩き回ってたから、会えた感動も一入なんだろうね。本当に良かった。ただ、
「危ないから、下りてからやれよ」
門番さんの言葉は、至極もっともだった。
あの後。ももちゃんも私もベシーちゃんを撫でさせてもらった。フワフワの毛とあったかい体が心地良くて、少し構いすぎてしまったけど。ベシーちゃんは嫌がる素振りも見せず、好きにさせてくれた。老猫ということだし、大人しくて賢いね。
「ありがとう。本当にありがとう」
ギルド前に戻ってきた私たちは、カイルくんと握手を交わす。
「ももちゃんの粘土、凄かったよ。なんでも作っちゃえるなんて」
うん、本当に良いアイテムをもらったよね。
「私は本当に付き添いだけになっちゃったけどね」
「いや、そんなことはないよ。ももちゃんもそうだけど、2人で親身になって心配してくれて、嬉しかった。不安な時には、それだけで結構救われるモンだよ」
そう言ってもらえると、私の方こそ嬉しいな。
「キミたちは、素敵な冒険者だ。これからどんどん活躍して、いつかきっとゴールドランク、いやプラチナランクまで!」
「ちょ、ちょっと。流石にそれは」
まだ駆け出しも良いところなのに、気が早すぎる。ゴールドやプラチナになるのがどれくらい難しいのかは分からないけど……その前にももちゃんのポニポニが改善されてる可能性もあるし。
まあそうなっても、折角だからエンディングまでは一緒にやりたいけどね。
「それじゃあ、また。僕の家にも、いつでも遊びに来てね」
手を振って、カイルくんは帰って行く。腕の中には、もちろんベシーちゃんを抱いたまま。
私たちも、彼らが見えなくなるまで手を振って見送ってから。
「さあ、報酬タイムだね」
「ふらわーこいん!」
ワクワクしてるももちゃんの手を引いて、ギルドの中へ。すぐに受付のおばさんが私たちを見つけてくれる。
「おかえり。クエストは無事に達成したみたいだね」
「はい」
「ももちゃん、きゃたちゅつくったの」
そうだね、大活躍だったね。
「それじゃあ……よいしょ」
おばさんがクエストの依頼書に大きなハンコを押した。『達成』と大きな赤文字。ももちゃんも見たがるので、抱っこした。
「それで、こっちが報酬金」
革袋がカウンターの上に置かれた。チャリチャリとコインの擦れる音。8000Gだっけ。恐らく、円と同じくらいで設定されてるだろうから、8000円。何かももちゃんに買ってあげても良いね。
「そして、これが……はい、フラワーコイン」
革袋の隣に置かれたのは……
「おはな!」
そう。お花が彫られたダークピンクのコイン。可愛いより、少しカッコいい感じ。受付さんは、ももちゃんの小さな手に握らせてくれる。
幼児特有の甲高い声をあげて喜ぶももちゃん。手足をバタバタさせるから、踵で蹴られてしまった。
たまらず床に下ろすと、そのまま私を見上げてきた。汗をかいてピカピカになったほっぺの横くらいに、小さな手で持ったピンクのコインを掲げている。
「良かったねえ」
少しかがんで頭を撫でる。
――こうして。私たち姉妹の初クエストは大成功に終わったのだった。




