幕間2:開花イベントその1
翌日。
ブロクエの世界へログインすると……親切なことに、街の西端からスタートしていた。カイルくんに連れられて入ってきた所だね。
「さあ、王都行きの乗合馬車は、あと2分で出るよー!」
「乗る人はもう居ないかー?」
少し離れた所に大きな馬車が。その御者席から、乗客を募る大音声が響いている。状況がよく分かってないももちゃんが、キョトンとした顔で見上げてくるけど。説明は馬車に乗り込んでからだね。なんせ2分後に出るみたいだから。
「すいません、乗ります!」
ももちゃんを抱っこして、駆け寄る。御者さんに断りを入れて、幌馬車の中へと乗り込んだ。丈夫な木製ステップが設置されていて、登りやすかった。
馬車の中の光源は窓から差す陽光のみだけど、そこまで暗い感じはしなかった。乗ってる人は、5人くらいかな。
「ひろい」
「そうだね」
馬車のサイズも大きいうえに、人が少ないから凄く広く見える。
乗客たちは……老夫婦と、若い男性1人、中年女性の2人組。私たちを一瞥したきり、誰も近寄っては来ない。なんか日本の電車やバスっぽいね。この世界の人たちは、みんな人懐っこいから逆に新鮮だ。
……まあ会話イベントが用意されてないだけだと思うけどね。
「出発するよー!」
「立ってる人は座ってねー!」
御者たちのアナウンスが飛ぶ。私たちも他の人たちとは離れた場所に腰を落ち着けた。
すぐに馬車が走り始める。と、同時。
『王都までスキップしますか?』
時短メッセージが現れた。半日かかる道程だから、『はい』以外の選択肢が無いんだよね。
というワケでスキップ。軽い暗転の後、
「王都だよー!」
「長旅、お疲れ様ー!」
御者が大声で到着のアナウンスをする。疲れてなくて申し訳ない。同乗してた人たちは、首を回したり、伸びをしたり。体をほぐしてから、馬車を降りていく。
私たちも降りて、御者席へ。
「はい。大人は4000Gと、子供は2000Gね」
「あ、そっか」
当たり前だけど、運賃はあるよね。カバンから皮袋を出して、合計の6000Gを支払う。結構痛いですね。
「またよろしく」
「良い旅を」
馬車が去っていく。
前方を見ると、先に下りたお客さんたちが、門番の詰所で話をしてる。どうもここは大門の前みたいだね。東西南北のどこだろう。と、キョロキョロ辺りを見回してみると……背後に百花樹があった。
「あ、街の西側か」
「ひゃっかじゅのまえに、びっくりまーくがあるよ」
ん? あ、本当だ。樹を見上げてたから気付かなかったけど、幹の低い所に『!』マークが出てる。イベント? えっと……あ、そっか。
「開花イベントか。20ごとに出来るって言ってたもんね」
「かいか?」
「お花、咲かせられるんだよ。フラワーコインで」
ももちゃんは小首を傾げる。まあ実際にやってみようか。
私たちは樹の傍まで歩いていく。すると、百花樹が淡く光り始めた。まるで意思があるかのようで……
「あ、ももちゃんのおかばんもひかってるよ?」
「え」
言われて、斜め下を見る。小さな体に掛かっている提げカバン。それが樹と同じ淡い緑に光っていた。共鳴……的な?
私はそのカバンを開けてみる。中を検めると、どうやらフラワーコインを入れてるガマグチさんが光ってるみたいだった。
『フラワーコイン20枚を使って開花させますか?』
選択肢も出てきた。
「ももちゃん、お花咲かせても良い?」
「ん? うん、いいよ」
了承も得たので、『はい』を選択。するとすぐさま、ガマグチさんの口からコインが飛び出してしまう。20枚が連なって飛んで行き、幹の傍へ。途端に緑の光が強くなったので、咄嗟にももちゃんを胸に掻き抱いて、私自身も目をキツく閉じる。
……数秒後。目蓋の向こうの光が収まった気配がして、私は恐る恐る目を開ける。
すると。
「わあ!」
「おはながさいてる!」
樹高の低い辺り、緑の葉の中から青い花が沢山。咲き乱れてると表現しても良いくらい。アジサイよりは青く、マリンブルーよりは薄い。絶妙な色合いだ。
「キレイだね」
「だねー」
マネっこももちゃん。
「こいんとられちゃったけど、きれいだからいっか」
あ、取られたって認識なんだ。まあ了承したとはいえ、いきなり吸い上げられた感あるし、無理もないか。
と、そこで。
――ありがとう
不思議な声。女性のようにも、変声期前の少年のようにも聞こえる。
まさか……百花樹? その疑問をぶつける前に、
――お礼に、こちらを……
そんな言葉が聞こえ、目の前の光景がボヤけてしまう。思わず目を擦り……次に開いた時には。
「なにかおちてくるよ」
ももちゃんの言葉通り、宙からゆっくりと何かが落ちてきている。物理法則を無視した、落ち葉が舞うような速度だ。
「紙で包まれてる……?」
なんだろう。流石に罠とかは無いよね。
そっと掴んでみる。やっぱり紙の袋だね。お守りとかが入ってるような……けど触った感じは、お守りより大きな物が入ってそう。
「ねえね、なにそれ? なにそれ?」
ももちゃんがピョンピョン跳ねて、自分も触りたいとせがんでくる。私は袋の口を開けて中身を取り出した。
少し横長で、金属質な手触り。そして青い花が4つもついている……
「わあ、お花のバレッタだ」
花の形状が、百花樹に今しがた咲いた青い花にそっくり。というか、そのものを模して作られてる品だろうね。
「あたまにつけるやつ?」
「うん。髪をまとめるバレッタだよ」
言いながら、私はももちゃんの前にしゃがむ。そして、その体をクルリと回して後頭部にバレッタを着けてあげた。
「可愛い! ももちゃん、可愛いよ!」
青いお花のちっちゃなバレッタ。
「みえない、ももちゃんみえないの」
「鏡を作ってみたら? 三面鏡」
言いながら、検索窓にワードを打ち込む。出てきた画像を見て、ももちゃんは粘土をコネコネ。数分で完成させた三面鏡。彼女の背後で広げてあげて、角度を調整すると、
「あ! おはな、ももちゃんのかみにさいてる!」
確認できたみたい。キラキラした瞳で、鏡に見入ってる。キレイだもんね。ラメとかの技術は無いハズなのに、自然と輝いてるし。
「んふふ」
まん丸なお顔をクシャッとして嬉しそうに笑うので、私も釣られて笑顔になる。
良かったね、ももちゃん。また何か良いことがあるかも知れないから、開花イベントも進めようね。




