10-8:アクアニルスにお別れ
夢のような時間は、あっという間に過ぎて。
全ての演目が終わり、ジェーヴァさんの〆の挨拶も終わったところで解散となった。係員が現れて、帰りの案内をしてくれる。
私たちも順番を待って外へ出た。ももちゃんは興奮が冷めやらないようで、テントを出た後も、
「すごかったね。あくあぞくさんのさーかす!」
と繰り返していた。
うん、実際凄かった。アクア族さんの能力には、ああいう使い方もあるんだなって。これがもし戦闘とかもあるゲームだったら、もっと物騒な使い方も……いや、やめとこう。折角、素敵で楽しい使い方を見せてもらった後なんだから。
と。前方にジェーヴァさんの姿。帰って行くお客さん全員に、深々と頭を下げている。
「……」
あれだけ高いクオリティのサーカス、そのオーナーでありながら、1人1人のお客さんに感謝を忘れない。いや、逆か。こういうオーナーさんが範を垂れてるから、サーカスもあの練度なのかも知れないね。
そりゃお客さんも来るハズだよ。街の人たちも観光客も、みんな笑顔でテントを後にしてるしね。
「ジェーヴァさん」
私たちも挨拶に向かう。カイルくんやヴィンボー家、クオルさんも続いた。
「ああ、みなさん。本日はありがとうございました」
「いえ。こちらこそ」
「たのしかった!」
「楽しかったです」
「久しぶりに拝見しましたが、相変わらず素晴らしいショーですね」
「また~~見に来ますね~~」
口々に感想を伝える。嬉しそうに笑うジェーヴァさんの目元の皺が深くなった。なんというか、営業スマイルも含まれてはいるんだろうけど、とても自然に感じる。仕事でもありながら、その仕事が好きなんだなって。そういう笑顔に見えた。
広場を抜けると、ミッテさんが待っていてくれた。船も発着エリアに停めてあるみたいだ。
「それじゃあ、またね」
「ばいば〜〜い」
「またです」
「じゃあね」
みんなと挨拶。この街でのクエストは、これが最後だけど……今生の別れみたいな雰囲気にはしたくなかった。ていうか、またここでもクエスト出るかも知れないしね。
ただ、ももちゃんは子供ながらに暫しの別れを察してるのか、大人しかった。
最後にベシーちゃんも撫でさせてもらって、私たちは船に乗り込む。三々五々、みんなの船が発進するのを見送って。
「んじゃ、アタシらも行くか」
船が出る。真っ暗な闇の中に飛び込むみたいで怖すぎるんだけど……と思ったら。
「わあ! でんきついた!」
ももちゃんが驚きに声をあげる。船の出発に合わせるように、水上が光り始める。
「灯籠……じゃなくて。ランタン?」
ガラスの小さな四角形の中に、きっと光の魔石を入れてあるんだ。オレンジの光が、転々と波間に揺れてる。
「紐の先に重石をつけて、水深の浅い所に沈めて固定してんだ」
なるほど。錨の要領だね。だから揺れることはあっても、流されはしない。
「キレイ……」
灯籠流しほどには数は無いけど、それでも光のラインは美しかった。でも帰り道を示してるせいか、なんとなく物寂しさも感じる。あるいは、この街との暫時の別れが私を感傷的にしてるのかも知れないけど。
「……」
ももちゃんも、そっと私に体を寄せてくる。その丸い頬をオレンジの光が照らし続けていた。
役所の前の桟橋に、船はゆっくりと着けた。ミッテさんとも、ここでお別れだね。
ももちゃんが小さくハグをすると、彼女も目尻を下げた。今日でアクアニルスを発つことは告げてあるからね。
「まあ今生の別れってワケでもないし……また遊びに来なよ」
「はい。それにまたアクアニルスでもクエストあるかもですし」
「はは、違いねえ。ももちゃんも、またな」
「うん……」
やっぱり寂しそうだ。どれくらい事情を理解してるのかは分からないけど、「別の街に行くので、しばらくは会えない」ということくらいは、きっと。
「……」
手を振って、ミッテさんの渡し船を見送る。と、その途中で、対面の建物から人が出てくるのが見えた。ランタンを持っている、身なりのピシッとした男性。
「ローヴィルさんだ」
向こうも私たちに気付いたらしく、小さくお辞儀をしてくれる。その洗練された所作が、だけどジェーヴァさんに似ていて、少し笑いそうになってしまう。
サーカスには来なかった(というか仕事があるから来れなかった)けど、確かな親子の絆を感じるよ。
「……っ」
ももちゃんが小さなお手々を振り振り。ミッテさんの後ろ姿にも、ローヴィルさんにも。忙しいね。
やがてローヴィルさんもホテルの中に入ってしまい、私たち以外に誰の姿も見えなくなった。
黒い大蛇のような運河に背を向けて、私たちも建物の中へと入る。
2階に上がって、ギルドを訪ねた。
「あ、お疲れさ〜〜ま。報告か〜〜な?」
「はい。よろしくお願いします」
ポールさんが書類にポンとハンコを押した。
そして、報酬のお金とフラワーコインをカウンター上へ。
「ありがとうございます」
「これでこの街~~のクエストは一旦終わり~~だね」
一旦、という言い方からしても、やっぱり物語の進行次第では新規が出ることもあるんだね。
「ポールさんも、ありがとうございました」
「ました」
「いやいや~~これが仕事だ~~からね」
私は何も貼られていない掲示板を一瞥だけして。
「ちなみに、これからどうするべきでしょうか?」
王都でクエストを5つこなした後は、ここに来るクエストが発生したワケだけど。
「王都に~~戻ると良い~~よ。何か新し~~いクエストが出てると思う~~から」
あ、そういう感じなんだね。王都以外の街でクエストが尽きたら、一旦王都に戻ってみる、と。今後も同じことが起きたら、そうしよう。
「それじゃあ~~ね。他の街でも頑張る~~んだよ」
「はい、頑張ります」
「ばいばい」
ギルドを出て、ログアウトする。
……またね、アクアニルス。美しい水の都。




