10-5:人気者ピエロさん
「あれ? 幸奈さんに、ももちゃん」
トラットリアの長女リンピアちゃんが、目を丸くして私たちを見る。その後ろ、船に積まれた大きなカバンが見えた。あの中には料理のデリバリーが入ってるんだろうな。本当に繁盛してるみたいだ。
「こんにちは、リンピアちゃん」
「ちは」
リンピアちゃんはペコリと頭を下げて。近況を話してくれた。デリバリーも店舗も好調で、予約で一杯になる日もあるんだとか。しきりに私たちのおかげだと言ってくれるけど、元の地力あってのことだからね。
「あ、そうだ。リンピアちゃんにも」
お店にチラシを置いてもらえたらありがたい。
私はクオルさんとリンピアちゃんの2人に、簡潔にクエスト内容を伝えた。併せて、ご協力をお願いしようとしたところで、
「それなら~~受付の机に置いておくよ~~」
「私も、店舗の入り口に置いておきます。花小路以外の配達先でも配りますよ」
2人の方から先回りして、協力を申し出てくれる。ありがたい。
私はカバンを開けて、チラシの束から半分近くを取り出す。
「えっと~~そのままじゃ~~風で飛んでっちゃうかも~~」
あ、そうか。受付もそうだけど、リンピアちゃんは船で移動するんだから、裸で渡されても困るよね。
「ももちゃん、このおカバンと同じの作れる?」
「うん、かんたん!」
私のカバンを指で触って色々確かめた後、しゃがみ込んで粘土をコネコネ。四角く成形し、ものの数分で作ってしまった。なんか最近どんどん上手くなってるね。魔法の粘土に慣れてきたのかな。
やがて色づいていったカバンは、私が持ってるのと同じくカーキ色に。カバン底のマチもコピー元と同じくらい硬くなった。
「うわあ、上等なカバンですね」
「運び終わったら、そのままあげるね」
「良いんですか!?」
「うん。何かに役立てて」
魔法の粘土の体積が減るから、回収するのがシビアだけど。流石に協力してもらった人に、「終わったら入れ物は返してね」って言うのは憚られる。
その後。クオルさんには受付テーブルの上に置くための文鎮を進呈。まあ言わずもがな、ももちゃんに作ってもらっただけで私は何もしてないんだけど。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「します」
「はい。任せてください」
「了解だよ~~」
私たちは2人に手を振って、ミッテさんの船に乗り込む。チラシは約半分になって、カバンが随分と軽い。ちなみにももちゃんの粘土も、度重なるリメインによって、増強前くらいの軽さに戻っちゃったらしい。また買い足さないとね。
再びグランド・アクアホテル近くまで戻ってきた。そこからグランドブリッジのあるフロートへと渡る。
「それじゃあ、アタシは3時間くらいしたら、また来るよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ばいばい」
ももちゃんのご挨拶に、ミッテさんも微苦笑して頷く。
そうして彼女は船に乗ると、近くの路地へと消えた。一旦、家に帰るのかも。レッガン先生のサポートからずっと働き通しだろうし、仮眠でも取れるなら取った方が良いよね。
「さ。私たちはチラシを配ろうか」
「はい!」
半分近く減ったチラシの束。そこから更に3分の1程度を小分けして妹に渡す。橋は結構幅があるので、両サイドの欄干前に別れて立つことにした。
まずは私がお手本ということで。
「サーカス、アクアサーカスです。今日の夜から公演始めます」
目の前を通り過ぎるオジサンが「お」という顔をして足を止める。
「良かったら見に来てください。楽しいですよ」
私も見てないクセに、憶測で言っちゃうよね。
あ。1枚、受け取ってくれた。
「さーかすです! さーかすです!」
ももちゃんは宣伝の語彙が無い分、連呼する作戦に出たね。ただその愛くるしいミニピエロさんの姿がウケてるみたいで、通行人のみなさんは結構な割合で受け取ってくれてる。ていうか、私が1枚受け取ってもらってる間に、5枚くらいハケてるし。
「♪♪」
対面の私に向かってニコニコ笑顔でピースサインしてくる。あら、可愛い。みんなが受け取ってくれるから嬉しいんだね。
と、そこで。
「あれ? 幸奈ちゃんとももちゃん?」
聞き覚えのある声に、視線を巡らせると。雑踏の中にカイルくんとヒューリンさんが居た。カイルくんだけ荷物を抱えているので、買い出しか何かかな。
「な~~」
彼らの足元からベシーちゃんも現れる。私の足に擦り寄ってくるので、しゃがんで頭を撫でた。
「あ! べしちゃん! かいるくんとおばちゃんも!」
ももちゃんも3人を発見したみたいで大きな声をあげる。うん、「おばちゃん」呼ばわりに、ヒューリンさんの片眉がヒクついたのが見えてしまったよね。
ももちゃんがタタタと駆け寄ってきて、ベシーちゃんと再会のハグを交わす。
「あっとと。チラシ落としちゃうよ」
寸でのところで回収。子供はワーッとなると、すぐ周りのことが意識から消えちゃうね。
「あはは。可愛いピエロさんだね。衣装借りたの?」
「借りったっていうか……クエストの最初に着替えるように指示されて」
そのままの流れで、今やってるクエストの内容を教える。
2人は私たちの持ってるチラシを受け取って、マジマジと検めた。
「へえ。また帰って来てるのね」
「僕は見たことないな。そんなに有名なの?」
「ええ。先代のアクアホテル支配人さんが趣味でやってるサーカスなんだけど……アクア族の技能を活かした見世物もあってね」
ヒューリンさんは詳しいみたいだ。きっと何度か観たことがあるんだね。
「そうね。今日の仕事は早めに切り上げて、一緒に観に行きましょうか」
「良いの?」
「ええ。折角この街に来たんだもの。楽しいイベントも無くちゃね」
叔母と甥の仲睦まじい会話。カイルくんは街での初めてのイベントだね。逆に私たちは、このクエストが最後みたいだから、アクアニルスでのラストイベントか。そう考えると、少し寂しいなあ。
「ももちゃんたちも観るのかい?」
「え、うん。チラシを配り終わったら、そのつもり」
ジェーヴァさんは席も用意しておくって言ってくれてたし。
「そうなのね。それじゃあ、後で会いましょう」
「はい」
最後にベシーちゃんを一撫でして。2人と1匹が去って行くのを見送った。
よし、私たちも残りのチラシを頑張ろう。




