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3歳児ももちゃんのVRMMO大冒険  作者: 生姜寧也
第10話:絢爛! アクアサーカス

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10-4:チラシを貼らせて

 アクアホテルのロビーへ入ると、すぐにローヴィルさんと目が合った。受付カウンターの奥の部屋から出てきたところだった。彼は私たちの来訪の意図を察しているようで、掌でロビーの一画をさす。


「行こう」


 ももちゃんの手を引いて、そちらへ。ローヴィルさんもカウンターから出てきた。


「こんにちは、ローヴィルさん」

「ちは」


「はい。先日はレッガン先生の件、ありがとうございました。まさかあんなに早く解決していただけるなんて……アナタ方に頼んで、本当に良かった」


「ああ、いえ」


 繰り返しになるけど、アレは先生が勝手に自身の嗅覚で題材を見つけたって感じだったからね。こっちとしては「成し遂げた」感は全然無い。

 

「……えっと、それで。今日、お伺いしたのは」


「はい。サーカスの告知ですよね?」


 やっぱり察してくれてた。まあジェーヴァさんから話が行ってて、このタイミングで私たちが来れば予想はつくよね。私は苦笑して頷く。


「お父様なんですよね」


「はい。今は悠々自適の楽隠居をしてますね。世界中の街をサーカスで回りたいそうですよ」


 少し呆れたような、だけど親愛を感じさせる声音。親子仲は悪くない、いやむしろ良好みたいだね。


「さて、それでは花小路のポスターの隣に貼ってください」


 ロビーからも見える位置、絶好のポイントだ。

 ももちゃんが貼りたがったので、チラシを1枚渡して抱っこする。


「針ツンツンだから、指刺さないようにね」


「ん」


 分かってる、と言わんばかりの自信満々っぷり。片手でコルクボードの上にチラシを固定して……もう片方の手でピンを掴む。意匠も無い無骨なヤツなので、ちょっと摘まみにくそうだ。


「大丈夫? チラシを持ってるお手々から離れた所に刺すんだよ?」


「ん~!」


 うるさいらしい。針とか刃物とかは、つい過保護になっちゃうんだよね。

 ももちゃんは、そっと針の部分をボードに突き刺した。チラシの右隅が留まる。もう1本ピンを取って、左隅にも。


「できた!」


「どれどれ」


 腕が限界なのもあって、ももちゃんを床に下ろしてから出来栄えをチェックする。

 ……うん。曲がってもないし、ピンを打った箇所もほぼ左右対称だ。やっぱり手先が器用だと、こういう小さな仕事でも反映されるんだね。


「中々、良い感じですね」


「はい、ありがとうございます」


 これで掲示は終わりだね。後は足で稼ぐ、いわゆる本来のチラシ配りだ。現実世界では、もう紙媒体なんて絶滅寸前になってしまって、各端末へのプッシュ型が主流だけど。高校の文化祭では、未だに紙スタイルだったなあ。古き良き文化体験という名目で。


「人が多い場所ですと……今なら花小路、グランドブリッジ辺りですか」


 グランドブリッジというのは、最初に街の西口から渡った大きな橋のことらしい。確かにリアカー通せるくらい幅も広かったし、人の往来も多かった印象。


「ありがとうございます。行ってみます」

「ばいばい」


「はい、お気を付けて」


 ローヴィルさんに見送られ、アクアホテルを辞すと……見覚えのある後ろ姿を見つけた。小麦色の肌に、青と黒の中間のような髪色。


「ミッテさん」


 名前を呼ぶと、彼女は振り返った。なんか晴れやかな顔してる。


「おお、アンタらか」


「こんにちは」


「おじちゃんのおてつだいは?」


「終わったよ。今さっき街の外まで送って来たんだ」


 なるほど、それでやり遂げた感が出てたんだ。


「いやあ、凄い経験だった。まさかレッガン先生にお会い出来て、そのうえ絵のお手伝いまで出来るなんてな。本当に幸運だったよ」


 聞けば、先生は下絵(?)を終わらせたところで、街を離れたらしい。後は自分のアトリエで仕上げるんだそうだ。私たちみたいにカメラ機能があるワケでもないのに、この街の光景や色を鮮明に覚え続けて描く。そういうことが可能だからこそ、超一流の絵描きさんなんだろうな。


「おじちゃん、さーかすみてからかえればよかったのにね」


「そうだねえ。でも多分、おじちゃんにとってはサーカスよりもお絵描きの方が楽しいんだと思うよ」


 ももちゃんは不思議そうにしてるけど、まあ人の好みはそれぞれだよね。


「サーカス? ああ、ジェーヴァの爺さんが道楽でやってるヤツか」


 流石はこの街の住人。知ってるみたいだね。


「帰って来てんだ。ふうん」


 もっとも、興味は薄そうだけどね。ミッテさんも『サーカス<絵』って感じか。


「それで、2人はサーカス絡みのクエスト中か?」


「あ、そうです」


「ちらし、くばるの」


 ももちゃんが私の提げているカバンを小さな手でパンパンした。ミッテさんはそれを見て、


「よし、それじゃあ今日はアンタたちの貸切でやろうかね」


「え? 良いんですか?」


「うん、なんか余韻ていうか。見知らぬ観光客を乗せる気分じゃないんだよな」


 勝手に解釈すると、推しとの最高の時間の残響に、他人を入れたくない。けど仕事してないと、一日呆けてそう。だったら知り合いの貸切で働こう。って感じかな。


「お安くしとくよ。1日乗り放題で1000Gでどうだい?」


「わあ! それは助かります!」


 さっきニルスウェインのフロートまで行っただけで800G(しかも相当トバされて気持ち悪くなったくらい)だったことを思えば、超破格値だ。


「よし、契約成立だね」


 ということで早速乗り込む。まずは……そうだなあ。


「花小路までお願いします」


「はいよ」


 軽快に走り出した船が、風を切る。さっきと違って、乗ってる人に不快を与えない運転だ。あまり大きな声では言えないけど、私が乗せてもらった中では、やっぱり彼女が一番上手いと感じる。

 そのまま船は10分ほどで花小路へと辿り着いた。待機船の最後尾には接続せず、飛ばして受付の桟橋へ。列の人たちから不満があがる前に、


「仕事の関係でーす! 観光じゃありませーん!」


 と、声を張る。殺気立ちかけていた人たちが「なんだ」と興味を失った雰囲気。日に日に人気が過熱してるね。良いことなのか、悪いことなのか。


「あ~~ももちゃんに幸奈ちゃんだ~~」


「こんにちは」

「ちは」


 挨拶を交わすと、クオルさんが柔らかく微笑んでくれる。これだけ売れても、何一つ変わらない素敵なお人柄。


「今日はどうしたの~~?」


「はい。えっと、また頼み事で申し訳ないんですが……」


「良いよ~~ヴィンボーさんのピザも~~大好評だし~~」


 そうなんだ。それは良かったよ。トラットリアも軌道に乗ってくれたんだね。


「って、ちょうどそのトラットリアさんが来たみたいだね」


 ミッテさんが見ている方向、水路の上流から小船が近づいてきていた。

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