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3歳児ももちゃんのVRMMO大冒険  作者: 生姜寧也
第1話:初めてのクエスト

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1-6:捜索を開始する

 まずは同じ南区の中を捜すことになった。カイルくんの猫、ベシーちゃんというらしいけど、その子が時々寄る場所があるそうで。


「ベシーをよく可愛がってくれてるおばあちゃんが居るんだ。何か知ってるかも」


 なるほど。猫は意外と顔が広いからね。一番楽なのは、そのおばあちゃんの所に居るパターンだけど。


「ここだね。ごめんくださーい」


 カイルくんが声を掛けると、中から白髪の老婆が出てきた。ほっぺがタルンとしてて、垂れ目。見たまんま優しそうなおばあちゃんだった。


「おや、カイルくん。帰ってたんだね。お疲れ様」


「うん、ありがとう」


 彼がお城の当直で、しばらく帰ってなかったことも知ってるみたい。日頃からご近所付き合いがあるのが分かるね。


「ベシーはそっちに寄ってないかな?」


「え? いや、今日は見てないけど……カイルくんが帰って来たんだから、そっちじゃないのかい?」


 大好きな飼い主が帰って来たのだから、当然家に居ると思うよね。

 カイルくんは、私たちにしたのと同じ説明をおばあちゃんにもする。


「……うーん。それは困ったねえ」


 聞き終えると、おばあちゃんは唸った。眉間に深いシワが刻まれ……それがパッと消える。


「そうだ。昨日、ベシーちゃんを見たよ。思い出した」


「え!? そうなの!?」


「どこでですか!?」


 カイルくんと私に詰め寄られて、おばあちゃんは少し鼻白んだけど、気を取り直して答えてくれる。


「南の古井戸だよ。チラッと見かけただけだから、見間違いかと思ったけど……やっぱり出掛けてたんだね」


「ふるいどってなーに?」


「古い井戸。井戸っていうのは、地面を掘り掘りして水が出るようにした穴のことだよ」


「んん? ももちゃんもすなばほりするけど、おみずでないよ?」


 まあそれはね。保育園の砂場から水が出たら、ソッコー保護者会だからね。


「地下にお水がある場所を探して、掘るんだよ」


「そうなんだ」


 恐らく分かってないけど興味も薄れた時の返事だね。


「っとと。カイルくんに置いて行かれちゃう。急ごう」


 ももちゃんを抱き上げ、小走りで追う。運動させることが主目的のプレイだから、あんまり抱っこはしたくないんだけどね。

 追いついて、少し歩いたところで。目的の井戸が見えてきた。整然と積まれた石は、だけどあちこちが苔むしている。だいぶ年季が入ってるみたいだね。


「ここも僕が子供の頃は、まだ使われてたんだ」


「そうなの? 今は放置されてるみたいだけど」


「うん。ここら辺は貧しい家が多くてね。有志で頑張って掘って作ったらしいんだけど……今は行政が手を差し伸べてくれてね。貯水池を作ってくれたんだ」


 なるほど。


「ソトカール2世は素晴らしい名君なんだ」


 あの王様、ソトカールっていうんだ。髪型まんまだね。


「けど、なるほど。それでこっちはもうお役御免なんだね」


「うん。でも懐かしいなあ。親に水を汲んできてくれって頼まれることも多くてさ。順番待ちしてる間、ベシーをよく構ってたっけ」


 目を細め、昔を懐かしんでいるカイルくん。けど私の方はと言うと、ちょっと不安になっていた。


「もしかして、ベシーちゃん、中に落っこちてるとか無いよね?」


「!? ま、まさか」


 カイルくんが血相変えて、井戸の縁に手を掛ける。下を覗き込むけど、


「暗くて見えないな」


 私も隣に並んで覗くけど……うん、ダメだね。そこまで深くはなさそうなんだけど、建物の影が重なってて、底は見えない感じだ。


「ベシー! 居るのかい!?」


 カイルくん、人目も憚らない。どうしよう、何か手は……って、ももちゃんがお帽子を脱いで、元の粘土の塊にくっつけて捏ね直してる。


「も、ももちゃん?」


 見ている間にも鮮やかな手並みで、工作していく。粘土の塊を半分くらい千切って、筒状へ。先端を輪っか状にして、溝を作って……表面を掌でキレイに平らにしていく。いや、本当に上手すぎだよ、ももちゃん。


「これは?」


 カイルくんは知らないアイテムだよね、そりゃ。

 私はもちろん、既に分かってる。


「かいちゅーでんと!」

「懐中電灯」


 もう最近はめっきり見かけなくなったアイテムだけど、ウチは恐竜図鑑があったり、色々レトロ志向な家だからね。ももちゃんも見たことも使ったこともあるんだ。

 そして、私たちの呼び声に反応したワケじゃないだろうけど。筒は黒色に変化し、ライト部分はガラスの質感と色合いへ。最後にスイッチが隆起して完成だ。


「ももちゃんがぴかーするっ!」


 言いながら手を伸ばしてくるけど、危ないからねえ。


「ももちゃん、カイルくんにぴかーっしてもらおう?」


 彼に任せて、私がももちゃんを抱っこして上から覗く形がスマートだからね。

 ただ案の定、ももちゃんは膨れ気味。


「ほら、懐中電灯持ってない方が、猫さん見つけやすいよ」


「ほんと?」


「うん。ねえねと一緒に見つけよう」


「うん! はい、かいるくん」


 懐中電灯をカイルくんに渡すももちゃん。良かった。丸く収められたね。

 受け取ったカイルくんに使い方(スイッチ押すだけだけど)を教えて、ぴかーっ。


「わわ!」


 驚いてるけど、取り落としたりはせず。そのまま井戸の底へライトを向けた。私も、ももちゃんを抱き上げて、上から覗く。


「ねこさん……いない」


「うん。良かった……」


 カイルくんもホッとした声。私だけももちゃんを高く持ち上げてるから、その後頭部しか見えないんだけどね。

 まあでも、落っこちてケガしてるかもというのは杞憂だった。私もホッとする。なんか結果としては、イタズラに不安を煽っちゃった感じになって申し訳ない。


「よいしょ」


 ももちゃんを下ろす。はあ、腕に乳酸が。


「いなかったよ?」


「うん。ここにはフラッと寄っただけなのかな」


 しかしこれで、手掛かりが途切れちゃったかな。次は虱潰し作戦? でも結構広いからなあ、この王都。

 と。


「おや、オマエさんたち。そんな所で何をしてるんだ?」


 今度は少し体格の良いおじさんが話しかけてきた。通りがかりという感じだけど、古井戸なんかに集まってる私たちが不審に思えたのかも。


「って。なんだ。カイルじゃねえか」


「魚屋さん」


 ん。知り合いなんだ。そして、そのおじさんは、


「昨日、オマエさんとこの猫がウチに来てたぜ」


 第2の手掛かりをもたらしてくれた。

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