9ー5:魔石採掘場に来てみた
「次は……魔石の採掘場に行ってみませんか?」
ミッテさんの提案に、私も興味を引かれる。魔石、不思議な力を秘めた石。アパートの掃除に使った時のことを思い出す。アレの採掘現場って、どんな感じなんだろう。
「ふうむ。そうだな、そこもまだ行ってないな」
レッガン先生も乗り気みたいだ。
というワケで、次は魔石採掘場に向かうことになった。街の南西(トラットリアのあるエリアの更に南)へと進むと……途中で陸地が途切れ、大海に放り出される形になった。
「……ど、どこまで行くんですか?」
こんな小船で海原を進んで行くのは、ハッキリ言って怖いんだけど。と思ったら、すぐに。
「うみほたるさん!」
ももちゃんが大きな声をあげる。その指がさす先、海面が淡く輝いていた。数ヶ月前に、家族で海ホタル見に行ったんだけど、確かにあの光景に似てる。
「アクア族が潜ってんだ。自分の周りの水流を操作しながらな」
なるほど。その光なんだ。
「……」
ももちゃんが身を乗り出そうとするので、後ろから腰の辺りを抱いて留めておく。
「水の魔石は、海底にあるんですか?」
「そうさ。あそこまで潜れるのはアクア族だけだね」
ミッテさんはどこか誇らしげに答えてくれる。
なんというか。改めて、アクア族のこの街への貢献度は計り知れないよね。観光業の要たる渡し船(まあこれは人力で漕いでる人も結構居るけど)。そして魔石という重要鉱物の採掘まで担ってるんだから。
……現実世界だったら、選民思想とかに繋がりそうだよね。
「あっちの船は……採掘した魔石を運ぶためのものか?」
レッガン先生が少し離れた場所を指さす。小船が群をなしてプカプカと浮いている。ミッテさんは「そうです」と受けて、
「屈強な男たちが引き上げて、船に積み込んでくれるんです」
ああ、そっか。水流の操作が出来ても、魔石の重さは変えられないもんね。だから、船に引き上げる時にはマッチョマンの助けが必要なんだ。ちょっと安心。普通の人ともキチンと共存できてるんだね。
「あ、おっきなおじちゃんがとびこんだ!」
ちょうど引き上げ作業が始まったらしく。半裸のマッチョマンが海へと飛び込んだ。そこに青い光が合流する。水面に顔を出したアクア族の女性から、マッチョマンが麻袋を受け取る。そしてそのままリフトアップ。
「うおらああああ!!」
「しゃあああああ!!」
「あああああああ!!」
持ち上げたオジサン、麻袋を受け取ったオジサン2人。どっちもこの距離でも聞こえてくるほどの野太い声をあげている。
「ああやってすぐ受け取ってくれるのはスゲえ助かるんだ。アクア族もあの重たい袋を海底から水流操作で浮上させてくるワケだから……海面までが限界でさ」
そうして、あれよあれよと積み込みが終わって。オジサン2人が船を漕ぎ始める。アレもきっと、アクア族でも出来るんだろうけど。重量がある分、操作に使うエネルギーが凄いんだろうな。それを人力で賄っているということ。
やっぱり最後は筋肉なんだね、この世界も。
「おじちゃん、あのひとたちをかくの?」
「いや、遠慮する。むさ苦しい」
まあ絵にするにはね。でも、
「海面のキレイな所だけ描くのは?」
「いや、ダメだ。それは本質ではない。あの筋肉妖精たちも含めての採掘だ。美しい所だけ切り取った欺瞞は俺の趣味じゃない」
カ、カッコいい。
「それに先程も言ったが、完成された美は既に1枚目で描いた」
あの物悲しくも美しい、夕焼けのアクアニルス。それとは違う視点……絵にはなるけど、完成されてないもの。うーん。本当に難題だなあ。これ、クリア出来るのかなあ。
「……と、取り敢えず戻りますね……」
ミッテさんも少し消沈してる。彼女の同胞であるアクア族の晴れ舞台。ここならワンチャンと思って案内したんだろうけど、結果はこれだもんね。彼女としても、これ以上は打つ手ナシって感じなのかなあ。
と。レッガンさんが何かを見つけたのか、僅かに身を乗り出す。
「レッガン先生?」
「アレは……なんだ?」
彼の見ている先。豆粒みたいな大きさの人が数人、船を漕いでる? のかな。
「ああ、アレは教練中ですね。アクア族も普通の人も最初はああやって船の漕ぎ方から学ぶんです」
あ、そういう施設もあるんだね。そういえば、ミッテさんも最初は船を使えなかったって言ってたし。アクア族もまた、基礎から始めるワケか。なんかホッとしたよ。
「ももちゃんも、れんしゅうできる?」
「え? やりたいの? ももちゃん」
「うん!」
おお。積極的だ。
「ももちゃんもあおいぴかぴか!」
「あ、そっち? それは練習しても出来ないよ」
「なんで?」
「ピカピカは……アクア族さんだけしか出来ないんだよ」
「じゃあももちゃんも、あくあぞくさんになる」
そうきたか。
額の辺りを小さな指で擦ってる。あの青い宝石みたいなのをつければ、なれると思ってるのかも。
「ははは。アクア族にはなれねえけど、船の練習は出来るぞ」
「私たちも乗らせてもらえるんですか?」
「ああ。観光客でも練習してる人、割と居るからね」
「そうなんですね。じゃあ、レッガン先生の依頼が終わったら……行ってみようか、ももちゃん」
「うん!」
と、話がまとまりかけたところで。そのレッガンさんが口を挟んだ。
「いや。今すぐ向かってくれ」
「え? なんの変哲もない訓練教室ですよ?」
「良いから」
レッガンさんは頑なだ。何か芸術家としての勘が働いたんだろうね。ミッテさんは少し困惑しながらも、
「わ、分かりました」
淡く発光し、船の舳先を回す。そうして急遽、方向転換。私たちは訓練場へと向かった。
船を走らせること、5分ほど。浮島と、そこから伸びた幾つもの桟橋が見えてくる。桟橋には沢山の小船が繋ぎ止められていて、ズラーッと並ぶ光景は壮観だった。
「元々は使わない船の置き場になってたんだ」
なるほど。だけど、ただ置いておくだけも勿体ないから、教練用に貸し出すようになったってことかな。
「……」
レッガン先生の目が鋭くなる。ガン見する先は、教練をやっている子供たちだ。現実世界だったら通報モノだけど……まあ先生に邪な意図はないよね。きっと何か掴みかけてるんだと思う。ミッテさんも察しているのか、話しかけたりはせずに見守ってる。だけど、
「れっがんおじちゃんはのらないの?」
ももちゃんは聞いちゃうよね。
「ああ、俺は乗れるからな。気にせず2人で乗ってくると良い」
「……じゃあ、ももちゃん。行こうか」
桟橋の根本、陸側に小屋が建ってる。そこで貸し出しの受付をしているらしく、訪ねて手続きをした。
小屋を出て、桟橋の上を歩いていく。
「どれにしようか?」
どれを使っても良いと言われたので、ももちゃんに選ばせてあげる。するとジーッと船の列を見て、
「ぴんくのやつ!」
と叫ぶ。あ、本当だ。鮮やかなピンク色した船がある。サイケなお菓子のピーチフレーバーみたいだ。
「可愛いね」
「かわいいね!」
オウム返しした後、嬉しそうに駆け出すももちゃん。慌てて手を繋ぐ。桟橋から落っこちたら大変だからね。
二人でピンクの船の前まで行って、係留ロープを外した。フワッと流れそうになるところを、後ろから追いついてきたミッテさんが水流操作で押さえてくれる。お礼を言って、姉妹で乗り込んだ。




