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3歳児ももちゃんのVRMMO大冒険  作者: 生姜寧也
第9話:未完成の風景

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9-3:2枚の絵

 戻ってきたレッガンさんは少しだけ肌にツヤが出ていた。モジャモジャの髪は無理矢理に束ねてポニーテールにしてある。服も着替えたおかげか、ニオイもいくぶんマシになっていた。


「それで、早速やってもらいたいのが……」


 私たちは助手の件は何も答えてないんだけどね。彼の中では完全にそういうことで話が進んでるみたい。


「もらいたいのが……」


 ん?


「何をしてもらえば良いんだろうな」


 知らないよ……

 ノープランにも程がある。

 と、そこで。


「まずは今ある絵を見てもらってはどうですか?」


「ローヴィルさん」


 階段を上がってきたその顔は、いくらか疲れてるように見えた。色々と後処理に奔走したことが窺える。


「絵を……か」


 レッガンさんは、自分の体臭がもたらしたアレコレについては……理解してないのか歯牙にも掛けてないのか。提案に対して考え込んでしまう。


「彼女たちは冒険者ですから、色んな街を周り、色んな知見を持っています。きっと思いも寄らない視座からのアドバイスが貰えるでしょう」


 ハードル!

 私たち、この街と王都しか知らないから、そんなの期待されても。


「ふむ。確かにな。子供の目はありのまま見る。価値はあるかも知れんな」


 レッガン先生も乗り気になっちゃたし。


「それでは部屋に入らせてもらいますね。あ、窓を開けてもよろしいですか?」


「ああ……冒険者の視座……何か……新しい発想」


 ほとんど心ここにあらずの間に、換気の許可を取り付けてしまうローヴィルさんの抜け目なさ。流石です。


「では……」


 サササッと入り、瞬く間に窓を全開。ゴミ類をまとめ、持参していた麻袋に詰めてしまう。凄い早業だった。

 それでいて、絵の具やイーゼルのあるエリアには近付かない。素晴らしいバランス感覚だね。


「う」


 持って帰ってきたゴミ袋も酷いニオイだ。ローヴィルさんは真一文字に口を結んだまま、タタタと駆け去って行く。アレはきっと息を止めてるんだね。


「ここに入るのかあ」


 ニオイの元は持ち去ってくれたけど、まだまだ換気の効果も望めないだろうし。と、そこで。ももちゃんが床に座り込んで何か工作してるのに気付いた。


「も、ももちゃん?」


 ペタペタと小さなお手々が四角いシートを作り……輪っかのような物とくっつけた。これは? と訊ねる前に、シートが白い布へと変わり、輪っかは耳ヒモとなった。


「ますく」


「あ! そっか。よく思いついたね……ももちゃん、ありがとう」


 3人分作ったみたいで、私にもくれた。そしてレッガン先生に向かって、


「はい。おじちゃんも」


 渡す。レッガン先生は大きく見開いた目で、受け取ったマスクを観察している。


「ももちゃんと言ったか? 凄いな、オマエさん。これは……」


 そっか。この魔法の粘土は相当珍しい物だもんね。


「これを絵にしたりとかは……?」


 おずおず訊ねてみる。


「ダメだな。珍しい粘土ではあるが……絵にしても伝わらん」


 ごもっとも。そういうところは現実的なんだね。

 正直、魔法の粘土が題材になれば楽が出来たんだけど……やっぱりそう甘くはないかあ。


「だが、なんというか。ももちゃんが一生懸命に工作しているところは……」


「工作してるところは?」


「……うーん。何か降りてきそうなんだが。分からん」


 ダメかあ。


「仕方ない。さっき支配人も言っていたように、まずは俺の絵を見てみてくれ。それで何か気付いたことがあれば言ってくれ」


 当初の予定通りに話が進む。

 私たちは覚悟を決めて、マスクを装着。レッガン先生も見様見真似で着けるが、


「息が苦しいな。なんだ、これは」


 不評みたいだ。

 ぶつくさ言いながら、部屋の中へと入るので、私たちもそれに続く。


「ん。少し匂うな」


 アナタの残り香だけどね。そして、その文句言ってたマスクが無かったら、もっと臭いんだからね。ももちゃんなんて、マスク越しに更にお鼻摘まんじゃってるし。


「まあ良い。ほら、あそこにあるのが、俺がこの街に来て描いた絵だ」


 キャンパスが載ったイーゼルが2脚。うち1枚は完成品みたいだ。

 

「うわあ……すごい」


 夕日に照らされた運河の光景。写実的で、とてもキレイだ。このホテルも描かれてるけど……優しいオレンジに包まれていて、どこか物悲しい。運河を行き交う渡し船は、少し手持ち無沙汰な様子。夕方になり、少しずつお客さんも減っていってるんだ。1日の終わり、活気に満ち溢れたメインストリートの店仕舞い。


「キレイなのに哀愁がありますね」


 なんというか……複雑な感情を掻き立ててくる。


「活気がある昼間の絵は、他の連中も描いてるからな。俺は敢えて、1日の終わり……その際の一瞬を捉えた」


 なるほど。捻くれてる……いや、そんな感性だからこそ、画家として優れてるのかもだけど。


「それで、もう1枚の方は……」


 白紙。まっさらな紙が架けられているだけだった。周辺に丸められた物が何枚も転がってるので、きっと描いてはボツを繰り返したんだと思われる。


「ああ、浮かばん。なんとか題材を決めないと」


 首を横に振る。


「そのためにオマエたちを雇ったんだ」


 やっぱりもう雇ったことになってるんだね、先生の中では。

 ただ「冒険者の視座云々」と言われてたけど、期待に沿えるような新しいアイデアはもたらせそうにない。何か代わりにチャンスのありそうなもの……


「えっと……花小路なんかは?」


 題材としては、うってつけな感じがするけど。


「花小路? なんだ、それは」


 やっぱり。2週間もこもりっぱなしでは、外の変化も知らないよね。


「新しく出来た観光スポットです」


「くおるさんがつくったの。きれいだよ!」


 レッガンさんはアゴに手を当て、


「ふうむ。そうだな。知らん間に街も変わってるみたいだから、回ってみるか」


 という結論になった。花小路で決まったら楽だけど。そうでなくても、また新しい発見があるかも知れないもんね。少なくとも、この臭い部屋でウンウン考えてるよりは、可能性はあると思う。


「戻りました」


 折良く、ローヴィルさんが戻ってくる。


「これから街を回ることになりました。何か題材が見つかるかも知れないから」


「あ、そうなんですね」


 少しホッとした顔になる。これで少しの間、ホテルは先生から解放されるもんね。


「お部屋のお掃除は……」


「完成した絵のある一角以外は好きにして良いぞ」


 それを聞いてまた表情が明るくなるローヴィルさん。良かったね。


「あ、貴重品は持って出てください!」


 財布を持たずに出ようとするレッガンさんを、ローヴィルさんが慌てて呼び止める。

 本当に……この先生、どうやって今まで生活してこれたんだろう。

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