8-7:なんとかなる
私たちが12人ものお客さんを連れ帰って来たのを見て、ロッコさんもビシェルさんも当然泡食ってしまった。
だけど。そこからが意外なことに……
「カツレツ、3入ります」
「4番さん、サラダまだです!」
「もう出来てるから、持って行って」
「こっちの前菜3種盛り、出来てますよ」
夫婦らしい阿吽の呼吸で次々と料理を仕上げていき、私とリンピアちゃんのホール組はついていくのがやっと。
「あ、前菜と一緒にワインだから!」
そうだった、忘れてた。
凄い。目がいくつもついてるみたいに、全体をよく見てる。
私は慌ててワインの準備もする。
「おお、凄いね!」
「不思議な粘土ねえ」
「いや、粘土も凄いけど」
「3歳でこんなに手先が器用だなんて」
お花や帽子、ぬいぐるみ等を作っては披露しているももちゃん。シッカリとお客さんの待ち時間をおもてなししてる。本人もいばりんぼポーズが出てるし、褒められて気持ち良いみたいだ。
……プテラノドンだけは作らないように、注意して見とかないとダメだけどね。
「マルゲリータの特大サイズ、焼けましたー!」
おお、と客席からも歓声があがる。
大皿に移されて、リンピアちゃんが両手で持ってきた。そこでもまた「美味そう」の大合唱があって、ももちゃんも期待に目を輝かせ(アナタはもう食べ過ぎだからダメだよ)、そして。
「みんなで取り分けよう!」
「ああ。今日はみんな兄弟だ!」
「ワインをもう1杯!」
「こっちもお願い!」
恐らく花小路に行く前は全然知らないグループの集まりだったハズなのに。お酒の勢いと、花の美しさと、食べ物の美味しさで……みんな兄弟になっちゃったみたい。
そうして……予定外の千客万来となったランチタイムが過ぎて行った。
コック帽を外し、ペチャンコになった髪を撫でつけながら。ロッコさんはカウンターの椅子に座っていた。ビシェルさんの方はキッチンの掃除をしながら、
「いやあ、幸奈ちゃんとももちゃんに頼んで正解だったねえ」
「そうだね。こんなに早く建て直しの目途をつけてくれるなんて」
嬉しそうな夫婦の会話に、だけど私は弱弱しい笑みを返すことしか出来ない。もうヘトヘトだ。ももちゃんはともかく、リンピアちゃんも同様で、テーブル席の椅子にへたり込むように座ってる。
「あははは。やっぱりマジメにやってたら、なんとかなるモンよねえ」
「本当、本当。人生、そんなものだ」
「……」
リンピアちゃんは色んな物を喉奥に押し込んだような顔をしてる。分かる、分かるよ。私たちが気を揉んでたのに、なんか普通にヒョイヒョイとオペレーションこなして……本当になんとかしちゃったし。更に今後もなんとかなりそうな目途だって立った。
もちろん嬉しいんだけど、なんかモヤモヤする……この感情。
と。おチビちゃんたちが2階から下りてくる。リンピアちゃんよりかなり歳下っぽい男の子3人と女の子。そして彼女が抱っこしてる、さっきの赤ちゃん。
「ああ、オマエたち。今日は凄い売り上げだったよ」
「良い子にしててくれて、ありがとうね」
夫婦がそれぞれ、子供たちをハグしに行く。
「そうだ。新しい服を買うか!」
「良いわねえ。靴も買ってあげましょ」
大喜びは分かるけど……いやいや。まだ油断するには早すぎるでしょ。
私はリンピアちゃんの顔を見る。彼女は諦めと喜びが入り混じったような微笑を浮かべていた。
止めなくて良いの? と目で訊ねると、
「仕方ありません。弟たちも欲しい物我慢してましたから……それに」
「それに?」
「意外と……なんとかなるものなのかも知れません。色々と」
そう言って頬を緩める彼女の視線の先。下の子たちがバンザイして飛び跳ねていた。
………………
…………
……
そして、私たちは店を出る。
「本当にありがとうございました」
「なんとお礼を言って良いか。幸奈ちゃんも、ももちゃんもいつでも食べに来てね。2人はタダよ」
「ただ!?」
ももちゃん……
「……紙箱は型をとって、なるだけ似た物を複製してくださいね」
「ぼくたちがやる!」
「うん。おとさんたちのやくにたつんだ!」
子供たちもヤル気満々だね。この子たちも、家のために出来ることをずっと求めてたのかも知れないね。家族が一致団結して、支え合えば……うん。確かに大抵のことは「なんとかなる」よね。
と、そこで。6人姉弟の真ん中の女の子が歩み出てくる。
「ゆ、ゆきなさん、これ」
何か手渡してくるので、掌を出すと。ダークピンクの丸い硬貨が3枚。
「ふわらーこいん!」
「3枚も!?」
驚く私たち姉妹を見て、子供たちはニシシと笑う。
「ぼくたちのたからものだけど」
「あげる!」
「い、良いの?」
どこかで見つけてきては集めてたんだろうに、本当に貰ってしまって良いのかな。
「うん! こいんもたからものだけど……おみせと、かぞくのほうがもっとたからものだもん!」
「おとさんたち、あんなにたのしそうなのひさしぶりだった!」
「おねえちゃんと、そっちのあかちゃんのおかげなんでしょ?」
「ももちゃん、あかちゃんじゃない……」
ちょっとムスッとしてしまうももちゃん。その頭を撫でて慰めながら。
「ありがとう、みんな」
私は素直に受け取った。何人か、ちょっと惜しそうな顔をしてるのが正直で可愛い。一瞬、返してあげるべきかとも思ったけど……これもまた教育なんだよね。惜しいと思う物を譲ってでも、感謝を伝えるという選択をした子供たちの意思を尊重しよう。
受け取り、ももちゃんがガマグチに仕舞い込む。ロッコさんもビシェルさんも優しく頷いてくれた。
頃合いで、最後にリンピアちゃんが出てくる。
「……私、お2人を送って行くね」
「ええ、お願い」
「本当に、重ね重ね……ありがとうございました」
ロッコさんが深く頭を下げてくれる。楽観的すぎるところはあっても、こういう場面ではキチンと大人だ。
「はい。お店、頑張ってくださいね」
船が出る。ヴィンボー家の面々は遠ざかっていく私たちに、いつまでも手を振り続けてくれていた。




